2章

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斎藤が持ってきた花火は手持ち主体のもので、派手さは無いが、彩りや種類が多かった。無邪気に楽しんでいる祐介の姿を見ると、買ってきて正解だったなと嬉しく思う。ここに着いた時、一度は花火を持って降りたのだが、お礼で呼ばれただけなのだから、食べ終わったら早く帰って欲しいと思われるんじゃないかと思い直し、もう一度車に戻り置いて来たのだ。いつもなら、不愛想な自分が浮かれるのは不似合いで恥ずかしく思うのだが、祐介と一緒だと、それも気にならない。自然と楽しい気持ちにさせてくれる。出会って日も浅いのに、不思議な感覚だった。 ひとしきり遊んだ後、祐介は ちょっと離れますね と斎藤に告げ、近くで同じ様に花火をしている若いキャンパーの所に走って行くと、何かをお願いしている様子だった。 足取りも軽く戻ってきた祐介は、ちょっとやりたい事があるんです と、ワクワクした様子で斎藤の目の前に花火を差し出した。 その花火が特殊なのかと、まじまじと見てみたが、何の変哲もないよくある噴射式の手持ち花火だ。意味が分からないまま祐介に視線を向けると、 「今日の記念に写真が撮りたいんです。協力して下さい」 とにこやかに言ってくる。あぁそうかと思い 「あまり撮るのは上手くないんだけど、頑張ってみるよ」 と答え、カメラを渡して貰おうと手を差し出すと、 「いやいやいや、違いますよ。斎藤さんも一緒に入るんです。そこの人に撮ってもらえるよう頼んできたんですよ」 と言って、ニコニコしている。 「斎藤さんは、後ろにくっついて立ってて貰えますか?で、僕がOKを出すまでじっとして動かないで欲しいんです」 「それだけ?」 「はい。それでバッチリです。」 それだけ言うと、先ほど話していたキャンパーがこちらに来たので、その人達の方へ歩いてゆき、スマホを操作してから渡すと、立ち位置の調整や、動作の確認をしていた。しばらくして、斎藤さん と呼ばれたので行ってみると、地面につけられたしるしを指して、ここに立って下さいと告げられた。 写真を撮ったり撮られたりという事にあまり馴染みのない斎藤は、これから起きる事の予想が全くつかない。しかし、祐介のはしゃぐ様を見ているだけで不思議と心が浮き立つのを感じた。
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