2章

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てっきりすぐに見せて貰えると思っていた斎藤は、いそいそと線香花火を取り出す祐介の態度に拍子抜けしてしまっていた。 後で、というのだから勿論見せてもらえるのは分かっているが、線香花火をしていても、先ほどの写真が気になってソワソワしてしまう。 「どっちが長くもたせられるか競争しますか?」 そんな斎藤の気持ちを知ってか知らずしてか、祐介は暢気に線香花火を楽しんでいた。 「良いよ。やろう。じゃぁもし俺が勝ったら、お願いを聞いてもらおうかな」 そう持ちかける斎藤に、望むところですという調子で 「良いですよ。じゃあ、僕が勝ったら僕のお願いも聞いて下さいね」 と祐介は返した。 「うわぁ。。。」 ポトリと祐介の線香花火の火が先に落ち、がっくりとうなだれている。座り込んだまま斎藤を見上げ 「あとちょっとだったのになぁ。残念。負けました。では、斎藤さんのお願いって何ですか?それはそれで結構興味あるんですよね。あ、でも、すぐ帰りたいっていうのはできれば無しで・・・。」 と聞いてくる。 「花火はもうしっかり楽しんだから、さっきのやつを先に見せて欲しい」 鳩が豆鉄砲を食ったよう というのはこういう顔の事だろうか。 あまりにも拍子抜けした表情で見返され 「そんな事ですか?え、斎藤さん、写真お好きだったんですか?」 と聞いてくる。その言葉でふと考えてみたが、 「いや、特に自分で撮ったり見たりすることはないかな」 そうだ、写真を撮る習慣も無ければ、興味も大してない。勿論、周りには誰か一人は写真を撮りたがる人間が必ずいるもので、飲み会や、ゼミ、友人と旅行等など、写真を撮られる機会は日常に転がっている。でも、どちらかと言うと、記録に残すより、記憶に残っていれば良いし、それを確かめて楽しんだりという感覚はあまり持ち合わせていなかった。実際、自分の画像フォルダーの中身は、まるでメモ帳代わりだ。人物、風景、ましてや食べ物等の存在は、両手で数えられる程の枚数しか存在しない。そんな斎藤だったが、今は少しでも早く見てみたいと思う。自分が経験したことの無い写真の撮り方だったからなのか、それ以外の理由なのか…自問してみたが、答えは出てこなかった。 「じゃあ、片づけてテントに戻りましょうか」 そう言って祐介が残った花火を拾い上げると、既に斎藤は水と花火の残骸が入ったバケツを下げ、スタスタとテントの方へ向かおうとしている。 写真そんなに見たかったんだ。先に見せてあげれば良かったかな 斎藤が興味を持って楽しみにしてくれているという事実が嬉しくて、祐介も小走りで後ろ姿を追った。
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