2章

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すがるような祐介の眼差しに、斎藤は少し戸惑っているように見えたが、ほどなくして、プッと吹き出したかと思うと、少し目元を緩ませ、 「分かった分かった。大丈夫。それより、今日の写真、俺にもくれるかな」 と、小野の事を追求することなく、話題を変えた。少し肩透かしな感じはしたものの、このタイミングを逃すものか と 思い、祐介は素早くスマホを操作し 「今 送りました」 と告げた。斎藤もスマホを取り出し、画像をしばらく眺めていたが、 「ありがとう。待ち受けにしても良いかな」 と少し照れ臭そうに聞いてきた。意外な申し出に驚いたが、それ以上に嬉しくて、 「はい。是非よろしくお願いします」 と、我ながら変な受け答えになってしまったが、斎藤がフフっと笑ってくれたので、良しとした。 気づけば辺りはすっかり暗くなっており、空には無数の星が煌めいている。 テントに二人で足を突っ込み、先ほどまでお尻に敷いていた寝袋クッションを今度は頭の下に敷いて夜空を見上げると、なんだかすっぽり天体に取り囲まれているような気分になってくる。 「これは凄いな」 横たわったまま呟く、低くて、少しかすれたような斎藤の声が耳に響く。 「でも、考えてみたら、斎藤さんは見慣れてますよね。こういうの」 苦笑交じりに言う祐介の言葉に 「いや、全くの別物だよ。それに俺のは星を見るっていうより、物質として興味がある方だから。綺麗とかとはかけ離れてるし、そういう視点であまり見たことがないんだ」 と、申し訳なさそうな声で斎藤が答える。天体が好きな理由にキレイ以外の理由があるなんて、思いもよらなかった祐介は、 「そうなんですか。てっきり星が好きで選ばれたのかと思ってました」 そう素直に感想を告げた。 「成り立ちとか、物質そのものに興味があるだけで、星座とか、ギリシャ神話とか、そういうロマンチックな物には疎いんだよ。面白味の無い奴だってよく言われる」 斎藤は星を見上げたまま、抑揚もなく返事をする、その表情がなんとなく寂しそうに見えた。 「そんなことないです」 思わず半身を起こして斎藤の方へ向き、否定の言葉をかける。斎藤の顔は暗がりであまりよく見えなかったが、少し驚きつつも、微笑んでくれているように思えた。 「君は優しいな。ありがとう」 寝たままの姿勢で腕を伸ばし、祐介の頭を撫でる。思った通り、柔らかくて癒される手触りだった。触っている手の平から温かい何かが入り込んできて、心の中のトゲをやんわりと溶かしていってくれる気がする。 「…斎藤さんの方が優しいです」 祐介はそう斎藤に聞こえるか聞こえないか程の、小さな声でつぶやくと、また横になった。
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