3章

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「じゃぁ母さん行ってきます」 弾むような声が玄関先から聞こえてくる。先ほどまで時計を見ながらソワソワ、服を着かえてはソワソワ。かなり落ち着かない様子だったが、やっと決まったのだろう。結局何にしたのか一目見てやろうと玄関へ向かう。 「斎藤さんに宜しくね…ってもう居ないわ」 今日は、斎藤の所へ大学を案内してもらいに行くと言っていた。祐介のトラブルを解決してくれた事がきっかけで、付き合いが始まったのだが、その後も何度か祐介に勉強を教えに来てくれ、お陰で祐介の成績は随分と上がっていた。最初は、勉強もでき、今時珍しく硬派な感じの斎藤が、祐介のわがままを断れず、実際はかなり斎藤に迷惑をかけているのではないかと危惧していた。しかし、家で一緒にいる様子を見ていると、意外とそうでもなさそうで、二人でご飯を食べたり、息抜きにゲームをしたりしている時は、なんだか仲の良い兄弟の様に見え、微笑ましくもあった。友達や家族と一緒にいる時には見せない照れた表情や、斎藤の横でじっと話を素直に聞いている様子からも、とても信頼している感じが伝わってきて、一人っ子の祐介にとっては良いお兄ちゃん的な感覚なのかなと思えた。部屋へおやつを持って行った時も、課題ができて喜んでいる祐介の頭を優しく撫でてくれていて、その表情がとても優しかった。斎藤もきっと祐介の事を可愛いと思ってくれているのだろう。親からすると、良い知り合いができて、とても嬉しく思う。
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