3章

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新幹線がトンネルに入る度、車窓に自分の姿が映し出される。 やっぱりいつも通りの方が良かったかな。 風で少し乱れていた髪を指先で整える。普段は寝癖直し用途でしか使わないワックスを今日はセットの為に使ってみた。服装も悩んだ末、グレーのチェックのパンツに、パンツよりワントーン明るい色のパーカー。それにブラックのコーチジャケットを合わせた。いつもはもっと明るい色の組み合わせで着ているのだが、それではなんだか斎藤に釣り合わない気がして、色だけでも大人っぽくしてみたのだ。 今日初めて斎藤の生活圏に触れる。また少し斎藤に近づける。 そして、まだ知らない斎藤の一面が見られるかもしれない。 大学を見に行く というのが第一目的のはずなのに、祐介の頭の中には斎藤の事しか浮かんでこなかった。 あと5分で到着だ。 最後のチェックをしに洗面所へ行こう。 そして、席には帰らずドアの前で着くのを待とう。少しでも早く会えるように。 新幹線のドアってなんでこんなにゆっくり開くんだろう。 焦る気持ちを抑えきれず、体を半身にしながら開きかけのドアをすり抜ける。 プラットホームを小走りに駆け、人が行儀よく一列に並んで乗っているエスカレーターを横目に、階段を駆け降りる。斎藤の大学までの経路は新幹線の中で何度も確認した。初めて降りる駅だが、構内図をしっかり見ていたおかげで迷うことなく地下鉄の乗り場までたどり着くことができた。
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