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高校の学祭しか経験の無い祐介にとって、大学の学祭の規模は想像をはるかに超えており、しばらくの間は、人の数と、屋台の種類に圧倒されていた。少しずつ目が慣れてきて、周りを落ち着いて見ながら歩けるようになった頃、通りの奥からこちらに向かって歩いてくる斎藤らしき姿を見つけた。人込みの中で、顔がチラホラ見え隠れするだけだが、なぜか斎藤だと祐介には確信がもてた。
平均よりもかなり高い斎藤の身長だから、こちらから見つけることができるが、平均より低い祐介の身長では、きっと普通にしていたら、斎藤に見つけて貰うことはできないだろう。
そう思い、どうにかして斎藤に気付いてもらおうと、右手を高く挙げかけた。その時、向こうに見える斎藤が、何かに驚いて後ろを振り向き、誰かと言葉を交わしている様子が見て取れた。足を止め、斎藤の姿を見失わない様に見ていると、また斎藤がこちらに向き直し歩き始める。今度こそと思い、中途半端になっていた手を再び挙げると、斎藤と自分の間にあった人混みが突然パッと開け、斎藤が女性と腕を組んで歩いているのが見えた。
「え・・・」
祐介は一瞬固まってしまったが、すぐに我に返ると、挙げていた手をすぐ引っ込め、素早く回れ右をして校門の方へ走った。一瞬斎藤と目が合った気がしたが、一瞬の事過ぎて、実際にはどうだったか分からない。
なのに、なぜだか、女性と腕を組んでいた光景が目に焼き付いて消えなかった。
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