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校内から出ようと一目散に走っている間も、先ほどの光景が頭の中から離れない。
ーーーフワフワした髪の似合う、綺麗で大人な女の人だった。
先程までのワクワクした気持ちが跡形も無く消え去り、今はとにかくここに居たくない、逃げ出したい気持ちで一杯だった。
今日はこのまま帰ろう。今は斎藤さんに会いたくない。
息が苦しい。周りの音も何も耳に入ってこない。
ここからなるべく遠くへ行きたい。
人にぶつかるのも気にせず、無心に門を目指して駆けだす。
あともう少しで斎藤とあの女の人がいるこの場所から逃げられる。
どうしてこんなにも逃げ出したいのか分からなかったが、そんな事よりも、とにかく今はこの場から遠ざかりたい一心だった。
「祐介、待て」
聞きなれた低くて凛とした 大好きなその声が、周りの音を全て消して、その音だけ抜き取ったかのようなクリアさで、耳に入ってくる。
祐介は、いつも感情に大きなムラがない斎藤の、初めて聞く切羽詰まったような大きな声につい足が止まってしまった。
え?今斎藤さんが僕の名前を呼んだ?
初めての事に思わず静止してしまった隙に、後ろからガシっと腕を掴まれる。おそるおそる振り向くと、片方の手でしっかり祐介の腕をつかんだまま、腰を折り、膝にもう片方の手をあて、肩で息をする斎藤がいた。
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