1章

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「大丈夫ですか。どうかされましたか」 声のする方を見上げると、若い男性が運転席から身を乗り出していた。 黒髪に黒縁の眼鏡、切れ長の目とすっきりとした鼻筋。少し神経質そうな印象の男だ。 ちょっと怖いけど、チャラチャラした外見じゃない分、危ない人には見えない。何よりこんな所で誰かが助けてくれるなんてそうそう無い。 「実はキャンプ場に向かう途中でタイヤがパンクしてしまったみたいで。修理する道具も無いし…。」 藁をもすがる思いでその男に話しかけたが、聞こえてるはずなのに何も返事が返ってこない。しばらく沈黙が続いて困っていると、 「それでどうしたいの」 抑揚が無く、少し低くて冷たい声色の声が男から聞こえてきた。 声かけてくれたから、優しい人かと思ったけど、見た目もちょっと怖くて無愛想だ、少しぐらいチャラチャラしてる人の方が良かったかも。と一瞬思ったが、よく考えてみると、自分がなんで困ってるかは話したけど、だからどうしたい っていうのはこの人に話していない。さっきの沈黙も、ひょっとしたら僕の考えを聞きたくて待ってくれてたのかも。 せっかく声かけてくれたんだし、僕の望みを聞いてくれてるんだから、一か八か頼んでみようと思い直し、 「ご迷惑でなければ、あと5キロ位先のキャンプ場まで乗せて貰えませんか」 と少し下から様子を伺いつつお願いしてみた。 すると、なんの返事も無く、運転席から男が下りると、乗っていたステーションワゴンの後部座席を開け、シートを倒してフルフラットな状態にすると、今度は後ろを開け 「それ乗せて」 と目で祐介のマウンテンバイクを乗せろと促した。 「え、これ積んで良いんですか」 ここに自転車は放置して、自分だけ乗せて行って貰い、明日迎えに来てもらった時に持って帰れば良いと思っていた祐介は予想外の申し出に驚いて聞き返した。すると男はさも理解できないといった表情で 「棄てるわけじゃないなら必要だろ。」 とだけ言って唖然としている祐介を尻目に、軽々と自転車を持ち上げると、フラットにされた後部座席にそのまま積み込んだ。 「あー。まだ泥が付いたままです。ごめんなさい。車汚してしまいますね」 乗せる前に土汚れを落としておこうと思っていたのに、さっさと積み込まれた結果、砂が車内に落ちてしまっていた。 「泥だらけってわけでもないんだから、使えば汚れる。人でも物でも同じだ。掃除すれば良い。それより荷物も後ろに積んだら助手席に乗って。」 ぶっきらぼうに告げて運転席に乗るとさっさとエンジンをかけた。 この人、もしかして人見知りなだけで、良い人なんじゃないかな。そんな事を考えながら祐介は慌てて車に乗り込みシートベルトを締めた。
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