16人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうしたんだ櫻井君、何だかひどくやつれているようだが」
食堂で、たまたま出くわした岡野君が心配そうに私に尋ねた。
彼は、この4月に別の部署に異動になっていて、久しぶりの再会だった。
「いや、あの件で」
「おおそうか、君はまだあそこにいるんだったな。その後どうだい」
「…まあ、見ての通りさ。
あんな若造でも出来るのに…一体なぜ」
「ばかをいっちゃいけない。
櫻井君、あれは天才だ、
僕や君のような凡才が敵うわけがない。
だから僕は進言したのだ。
君らのところも、はやく自分達で作るなんてバカな真似はやめて、彼のような人物を育てていくよう、方針転換すべきだ」
そういえば、彼はあの日の以来、そういって曲づくりを辞めてしまったのだった。
それもあり、やる気がないと見なされて、この春部署異動になっていたのだった。
くそ、くそっ……!
誰が凡才だと?
負け犬の遠吠えのくせに!
私はさらに曲づくりに熱中した。
何としても名曲を生み出し、上司を、岡野君を、そして、あいつを絶対に見返してやる。
しかし、ようやく上司に認められて決裁が降りた曲さえ、ほとんど使われることもなく、ただ作っただけに終わってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!