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私が、彼の訃報に触れたのは、それから2年とちょっとを過ぎた頃だった。
日々の忙しさの中、そのことをすっかり忘れていた私にとって、それは、かなりの衝撃を持ったニュースであった。
そのことを私に伝えた部下は、忌々しげにこう言った。
「何でも、留学先の独逸で、肺結核を貰ったらしく。
ええ、東京ではなく、故郷の大分に戻っていたそうで、そこで最期を迎えたと。
せっかく国家予算を使ってまで勉強をさせていたというのに、勿体ない…」
憤慨する部下には何気ない返事で誤魔化したが、彼を追い払った後すぐに、心臓が締め付けられたような気分の悪さに見舞われた。
動悸と冷や汗が止まらなくなり、とうとうその日は早退を申し出た。
その時の私には思いもよらなかったことだが、今ならわかる。
私は、芸術というものに対して、何かとんでもない冒涜を犯してしまった気がしていたのだ。
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