昔の光

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これは、私の狭量が招いたことなのか? 否、違う。たまたまだ。 我々は、慧眼を持ってあの男を才を見出し、国を代表する音楽家として育てるべく、先進の地へと送り出した。 あの男は、憧れだった独逸への留学を果たし、本望を遂げたのだ。 残念ながら、志半ばにして病に斃れてしまうことにはなったが… 藝術の道とは、厳しいもの。 やむなき天命、仕方のないことだった。 私のちょっとした意地悪が、彼の未来を奪っただなんて、悪い連想もいいところだ。 私は、何度も何度も繰り返し自身にそう言い聞かせた。 それから後は、積極的にそのことを忘れることにした。
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