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以降、
文化は急速に発達し、蓄音機という装置があれば、ピアノや風琴が家になくとも、音楽を聴くことができるようになった。
昔流行った歌などすっかり風化し、西洋音楽の旋律やリズムは、人々のより身近なものになる反面、目新しさを失った。
あれだけ巷にあふれていたあの男の曲も、すっかり聴くこともなくなっていたある日のこと。
「ゆきやこんこ、あられやこんこ」
「い、一郎や、そのお歌は…」
小学校に上がったばかりの我が息子が庭で口ずさんでいた歌が、縁側で寛ぐ私の耳に入ってきた。
よほど驚いた顔をしていたのだろう。
一郎は最初、きょとんとした顔で私を見つめていたが、すぐににっこりと笑った。
「はい、父さま。一昨日の音楽の時間に、先生に教えてもらったのです」
「そ、そうか。いや、お父さんが知っている歌と似ていたからね。最後まで…聞かせてくれるかい?」
「はい!」
一郎は、元気の良い返事の後、同じ歌を再びはじめから歌い出した。
「まさか…」
忘れもしない。
それは、かつて私が夢中になって聴いた曲に相違なかった。
信じられない、あの男が鬼籍に入って、もう10年以上も経つというのに!
一郎の歌を最後まで聴くと、原曲とはかなり違っていたが、その歌い出しは間違いなく彼のものであった。
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