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しかし。
「なんだこの軟弱な詩は。
こんな、花がきれいだとか、ちょうちょが愛らしいだの、国家の礎となる日本男児につまらんことを歌わせられるか!」
「うーん、櫻井君、これではいかにもお堅い。まるで軍歌のようだよ。もう少し、童歌のように楽しいものにはならぬのかね」
「話にならぬな。こんなものを出せば、文部省はいい笑いものだ。
子どもに謳わせる詩には、陛下への尊敬とか、国家の掲揚とか、そういった内容をいれてはどうか」
我々の作ったものはどれも皆、三者三様の理由で上司達に却下されてしまっていた。
くそう...西洋の軽妙さを入れれば、軟弱だと言われ、手堅く作ればつまらないと言われる。
一体、どうしろというのだ!
すっかり煮詰まっていた時に、同期の岡野が、こんなことを言い出した。
「なあ櫻井、今巷で流行している曲なんだが…知っているか?」
なんでも、東京音大に在籍する学生が作った曲なのだそうで、岡野も奴の姪っ子に教えてもらったそうだ。
なんでも、その姪の通っている女学校では皆が口ずさむほどの人気ぶりだそうだ。
私は早速、岡野から借りた楽譜を家に持ち帰り、家内にピアノで弾かせてみた。
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