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「なあ櫻井君。彼に一度会ってみないか」
そうして、あわよくば作曲のコツを聞き出してやろうじゃないか、などと岡野くんは笑っていた。
私は、一も二もなくもなく、その提案に乗った。
こんな素晴らしい曲を作るのはどんな人間か、何を考え、どういう生活をしているのか、是非とも知りたい。
彼の姿は、私の中で最早神格化されていた。
「なんでも、父君は大久保卿の側近らしいぞ、かなりの御曹司だ」
伝手を辿って面会日程を決めるのは岡野くんに任せることとし、私はその日を待った。
と同時に、私は「花」「メヌエット」「四季」など、彼の譜面を探して買い漁っては、家内に強請弾いてもらった。
「あらあら、困ったひとね」
家内は半ば呆れながらも、美しいその旋律を、私が請うたびに、幾度も繰り返し聞かせてくれるのだった。
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