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「どうも、はじめまして」
風琴の前で青年は、折り目正しく会釈をした。色白でひょろっとした、どこか繊細な感じのする青年。
確かに、これでは女学生が騒ぐのも無理はなかろうという、第一印象であった。
気持ちは一気に昂った。
私は、挨拶もそこそこに、予め準備していた質問を矢継ぎ早にぶつけていった。
いつから、音楽をはじめたのか。
音楽をするうえでの心構えとは。
どうしたら、そのような曲が作れるのか。
何か秘訣のようなものがあるのか。
「秘訣、ですか?えーと、そうですね」
彼は、困ったように頭をかいた。
「お役人様にそう言われましても…
そうですね、何か、コツのようなものがあるわけではないのです。
何と言いますか、その…突然の閃きのようなものがある時もあれば、何日経ってもずっと風琴の前で頭を抱えていることだってあるのです」
「それでも何か…!」
「まあまあ、櫻井君。ところで君…」
岡野君が、なお食い下がろうとする私を制して、当たり障りのない質問を始めた。
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