昔の光

7/25
前へ
/25ページ
次へ
「どうも、はじめまして」 風琴(オルガン)の前で青年は、折り目正しく会釈をした。色白でひょろっとした、どこか繊細な感じのする青年。 確かに、これでは女学生が騒ぐのも無理はなかろうという、第一印象であった。 気持ちは一気に昂った。 私は、挨拶もそこそこに、予め準備していた質問を矢継ぎ早にぶつけていった。 いつから、音楽をはじめたのか。 音楽をするうえでの心構えとは。 どうしたら、そのような曲が作れるのか。 何か秘訣のようなものがあるのか。 「秘訣、ですか?えーと、そうですね」 彼は、困ったように頭をかいた。 「お役人様にそう言われましても… そうですね、何か、コツのようなものがあるわけではないのです。 何と言いますか、その…突然の閃きのようなものがある時もあれば、何日経ってもずっと風琴(オルガン)の前で頭を抱えていることだってあるのです」 「それでも何か…!」 「まあまあ、櫻井君。ところで君…」 岡野君が、なお食い下がろうとする私を制して、当たり障りのない質問を始めた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加