昔の光

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面会を終えてからというもの、私は、ますます曲作りに没頭した。 正直、あの面会は、自分の聞きたいことを十分に聞けず、少々消化不良気味であった。 しかし、そのことがかえって私に自信をつけさせていた。 なんだ、あのような素晴らしい曲を作るのはどんな人間だろうと期待していたが、何ら自分達と変わらないではないか。 どころか、見た目はなよっとした病弱で、謙虚なばかり。 男ぶりであれば、俺や岡野君の方がより優れている。 その上、肝心の音楽だって、学校には、さらに上が居るというではないか。 出来る。 あのような若造の出来ることであれば、私にだって、簡単に…! 一時は涙したものだが、冷静になって分解してみれば、彼の曲も、単純明快なリズムに、西洋風の旋律、それに誰にでもわかる易しい詩がのせられているだけのこと。 私は、物差しでノートに五線譜を引いたのをたくさんつくり、張り切って制作に勤しんだ。 しかし、書けども書けども駄作ばかり。 一向に成果は上がらないのだった。
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