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先にミツと圭は東京へ行っていて、引越しを完了させて俺の到着を待っていてくれる運びになった。
家を出るのは初めてだから、生活に必要な家電なんかを一から色々お揃えなきゃならないはずだったところをふたりが持ち込んだ家電のおかげで随分と節約させてもらえることになった。
ベッドやらクローゼットやらは大阪で選んで、東京の配送センターから送られて先に家を整えているミツが搬入に立ち会ってくれたから後は洋服とか小物とかそんなんを送って引越しは終了。
至れり尽くせりで有難くて涙が出そうってやつやな。
三月だってのにまだキンキンに冷えた東京駅にひとりで降り立った。
新幹線て便利だな。
ほんの数時間であっという間に関東だ。
見送りに来た両親はなんでか物凄く心配そうだったけれど、俺からしたら距離を置くいい機会だった。自殺未遂なんかしでかした息子の扱いは夏希のことがあった両親には酷だろう。そもそもが扱い難そうにしてたところはあったしな。
ここまで拗れたら一回、物理的な距離を置いた方がいい。
「さて、直通の路線は無いから乗り換えやな」
迎えに来てくれるって言われてはいありがとさん、とは言えなかったから駅の路線図を確認して都心をぐるりと回る緑のラインの電車に乗り込んだ。
家の世話をされて、迎えにまで来られたらなんていうか、格好が付かない気がしてな。
なんだかシュッとした格好の奴等ばかりの車両で、わざとらしくならない程度に周りを確認しておくことにした。別に自分をダサいとは思わないけど、なんとなく大阪感は醸し出されてしまってる気がしたから今後服を買う時の参考にさしてもらおうかと。
周りのファッションチェックを終えて、なんとなく見つめた窓から見える景色はビルの灰色。
天気は良くて、スコンと抜けるような青を写し出した灰色の壁がガタンゴトンって規則的な音と共に流れていくのをぼーっと見つめた。
乗り換え駅に着いて、今度は地下へと下っていく。
養生が貼られた構内は改装中なのかもしれない。どこもここも近代的に姿を変える過渡期のようなもので、工事中の看板が目に映る。
足早で歩く人の間を縫って地下の改札を抜けて、地下街を天井からぶらさがった乗換案内を見ながら歩く。洋服屋や雑貨屋、なんかわからないオシャレな菓子が並んだ地下街を抜けて更に地下へ。
その先にある改札から更に下って地下鉄のホームへ向かう。
「結構遠いな」
電車を待ちながらベンチで薄暗い駅のホームを見渡す。
ここも改装工事をしているみたいだから暫くしたらもっと明るくて綺麗な駅に生まれ変わるのかもしれない。
「はぁ……」
上京を決めた事でバタバタして夏希のことが遠い記憶のような気がしてしまっている。まだ半年くらいしか経ってないっていうのに、俺はきっと薄情者なんだろう。
家族のように悲しむべきなんだ。
夏希の不在は家の中にほんのりと影を落として、日常を過ごしていても折りに触れて悲しんでみせるのが普通の在り方なのかもしれなかった。
家族は急に上京するだなんて言い出した俺を、悲しみからわざと忙しくして誤魔化そうとしているって受け取っていたしな。
本当はそんなことはなくて。
あのよく分からない状態で首を括って、助けられた時に夏希の死の衝撃は掻き消えてしまっていた。
俺の首を絞めたミツの顔が、その後で月の光を浴びながら笑うあの顔が、その衝撃を塗り替えた。
あの日から俺の中にミツがどんっ!と居座った。
それまでだって、まぁ、ほら、あれだ。
男だからって頭があったから好きな顔とか性格が好みとかいってもそこまでじゃなかったんじゃないか?
それが一気に悪化した。
「俺、平気か……」
ミツと一緒に暮らして、万が一にも襲ったりしたら圭に殺されるんじゃないか?
いや、そりゃ理性さんには全力で頑張ってもらうけどな。
あの後から俺のどこかがあからさまにおかしい。
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