love me, I love you

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 部屋でまったりとギターを弾いていたら玄関の開く音がした。  時計を見上げれば中々な時間で、圭がバイトを終えて帰ってきたのに気が付いた。集中すると周りの音が消えてしまう癖があるんだよ、俺。  ずっと同じ姿勢でいたせいで固まってる体を肩や首を回して解して、両手を伸ばして力を抜くように下ろすと腰に手を当てて立ち上がった。 「帰ったか」  手を洗って居間に姿をみせた圭がそっと視線だけでミツの姿を探す。  一緒に住むようになって気が付いた。  昔はミツが恋する乙女みたいだなんて思ったもんだけど、圭がさりげなくミツのことを特別扱いするもんだからそのイメージに拍車がかかってたらしい。  ミツは圭の世話がしたいんだと思っていたけれど、その実そうじゃなかった。ミツは圭がいないと生きていけないとか、そういう感じらしい。酸素とか、神様とか、そういうやつな。  圭の方はもっと俗っぽい気がする。もっと、もっと、人っぽくて、傲慢で、ミツが自分を一番に据えていて当然とすら思っている気がした。 「ただいま」 「今日の晩飯はチャーハンと中華スープな。今温める」 「自分で出来る」 「疲れとるやろ」 「……悪い」  あと、圭は言葉が俺以上に不自由だ。  今の自分で出来るなんて、よく知らない奴が聞いたら突き放されたって思いそうなもんだ。実際の意味は俺の手を煩わせることはないとか、そんな感じだな。突き放すどころか気遣いの言葉だ。分かり難い。  電子レンジでチンしてやってもいいけど、やっぱり中華鍋に入ったままもう一度火を通してやった方が断然美味いもんな。スープの方も煮詰めてしまわないように気を付けながら温め直してやる。  部屋に荷物を置いた圭が居間に姿をみせる頃にはちゃんとした夕飯がテーブルに並んだ。  手を合わせてからきちんと「いただきます」を口にして散り蓮華を手に取ってカツカツとチャーハンを掻き込んだ。  俺は何をするでもなくテーブルに肘をついてそんな圭を眺めている。  飯を食ってる時に圭はほぼしゃべらない。いや、元々言葉は少ない方だから飯時が特にって気が付いたのは最近だけれど。  やたら綺麗に食べるのは行儀が良いとか悪いとかって話かと思えばそんなことはなく、飯を作ってくれたミツへの最低限の礼儀のようだった。  その証拠にミツ手製の弁当じゃなかった時の昼飯の食い方は結構なもんで、コンビニで買ったサンドイッチなんて大きな口を開けてばくんばくんと二口で口に収めてサラダも箸で掴めるだけ掴んで口へ放り込んでほぼ噛まずに飲み込んでたし、スープに至ってはそれ固まってないか?ってくらい適当に粉末を掻き混ぜて飲み込んでしまっていた。  食に対する意識もそうだけど、容姿に関しても興味なんかなくて、見た目が人形のように綺麗なくせにワイシャツとスキニーかテーパードを合わせてるだけの無難としか言えないような恰好をしている。  ザ・無難。  髪だって長めの前髪が瞳を隠すか隠さないかくらいに長いってのが最大の特徴で、あとはそれお前がやってるからいいものの、見た目が平凡な奴がやったら坊っちゃん刈りだなって有様。  大正デモクラシーか? 「なんだ?」  あんまりにも眺め過ぎたらしい。  食事を終えた圭が眉間に皺を寄せてこちらに視線を投げてきた。  そらそうだよな。  飯食ってるところをじっと見つめられるとか嫌だよな。  俺もヤダ。 「髪、切らんのか?」 「髪?」 「俺みたく頭触らせんの嫌と違うんやろ?」 「まぁ、どうでもええからそのままにしとるだけやけど」  それがどうしたってとこか。  そりゃそうだろうな。  いきなり何の話だ?てな。 「今まで制服やったから違和感なかったけどな」 「変か?」 「いや。変ではな。勿体ないだけ」  首を傾げると長い前髪がサラリと流れて、隠されていた複雑な色をした瞳がこちらを視界に収めてきた。  前に予想した通り圭はクオーターだった。  人形のように透明な色素の薄い肌や髪は祖母から受け継いだものらしい。黒く見えて深いグレーや茶色、深緑をぐちゃぐちゃと混ぜたような不思議な瞳の色をしている。 「勿体無い?」  鸚鵡返しをしてきた。  圭は自分の容姿が嫌いだ。  口に出して言ったことはなかったけど、そうなんだと思う。興味が無いとか無頓着とかじゃなくって、嫌い。  って、俺も自分の容姿なんか興味もないから同類かと思っていたからそうじゃないって気が付いたんだけど。 「圭はお綺麗な面しとるやんか」 「褒めてるのか?」 「まぁな」  嫌いだからはい変えますってもんでもないしな。 「服装はミツがせっせとお前に合うもん用意してるんやから髪とかそういうもんも服に合わせとけって話」 「……そうか」  頭を触らせるのが苦手で伸びたい放題伸びっぱなしの俺が言えた話じゃないけどな。  使い慣れた丸メガネは大学に入って封印して、コンタクトにした。長い髪は適当な長さになったら自分で切ってるし、邪魔にならないように一つに括ったりもしてる。  服装はまぁ、好きなロックバンドの真似をしてレザーのライダースジャケットを着てるけど不衛生にならないように気は使ってるつもりだ。  汚らしい見た目をしてミツに嫌がられるのは困るからな。 「千春にまで言われたなら仕方ない」  ん?  俺にまで? 「大学で知り合った奴の弟に言われた。見た目が整ってる方が他人に侮られなくて済むらしい」 「何者やそいつ」 「高校生だけどな、結構的確な事を言う」 「はぁ」 「俺は自分の見た目が好きじゃないが、それが武器になるなら使わない手はない」  うん。  本当にコイツ変わってるなー。
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