HOME

4/10
前へ
/361ページ
次へ
 昼飯はいつもつるんでる奴等に日南を加えた五人で机をくっ付けて弁当を食う。  自分の机で食ってる奴も多いけど、ウチのクラスの女子が主にこの机をくっつけるスタイルで、席を占拠された奴が一番後ろの俺の席に来たのが始まり。  因みによその教室へは進入禁止になってるから食う場所は自ずと限られてくる。  校庭はいうほど広くないし、屋上だって狭い。各部室は上級生か女子のもので、飯を食うだけなら拘りなく適当に自分の教室内の空いてる席で食うのが無難だ。 「幸村のとこ行かなくてええのか?」 「あん?あー、ええて。家でも一緒なのに学校きてまで俺の顔見たくないやろ」 「そらそうか」  なんでわざわざ一緒に住むことにしたのかは分からない。  日南はそういうところが上手かった。  質問にはきちんと答えるけれど、答えたくないところはきちんと答えた答えの中へぼやかして濁してしまう。中坊に毛の生えた俺等をあしらうのなんかお手の物って感じだな。 「なー日南ってミツに似てへん?」 「言われてみたら似とるかも?!」  早々に飯を食い終わった奴等が好き勝手に盛り上がる。芸能人に似てるとかそういうやつな。  ミツってのは最近売り出し中の女優で言われてみりゃ笑った顔が似てなくもない。なんちゃらミツキって名前。そいつは八重歯じゃないからそこが決定的に違うんだけどな。 「似とるかぁ?」 「めっちゃ似とるって!」  こういうノリであだ名って決まるんやなぁ……。  チリッと後頭部に視線を感じて、何かと窓ガラス越しに確認してみたら不明瞭ながら幸村が廊下からこっちを見てるのが分かった。  ミツはああ言ったけれど、幸村の方は気になってるんだろう。義理でも兄貴なら変な時期の転入になってしまった弟を心配するのも頷ける。 「おいミツ」  小さく声を掛けて視線だけで廊下を示してやると、苦笑いを浮かべて食い終わった弁当を片付けてから立ち上がる。  そして人あたりの良さはそのままに軽く詫びると廊下へ向かってしまった。 「どしたん?」 「兄貴が様子見に来とったからな」 「あー、隣のイケメンな」  隣のイケメン。  結構なお言葉やな。  そう言われるのもまぁ頷ける仕草で腕を組んで壁に寄りかかる幸村は、目の前に立ったミツに相変わらずクールな視線を向けている。  ミツの方はといえば、俺等に向けるよりも少しばかり幼い笑顔を向けて話しているから兄弟仲は良好なんだろう。  ミツが転入してからというもの、俺はなんでかミツと行動を共にすることが増えた。  それはミツが俺の欲するものを先回りして寄越すからかもしれないし、ただ単に友達として居心地が良かったからかもしれない。 「今日は千春バイトやっけ?」 「ん?なんかあるんか?」 「なんもないよ。なんとなく」  後ろの席で前の時間のノートを纏めながら聞いてきたから聞き返してやれば何の用もなかったらしい。  ここは進学校だからバイトをしている奴は少なくて、生活の為にバイトをしているミツやバンド活動費を捻出したい俺みたいな奴くらいしか居ない。 「ミツは?」 「俺?俺は今日は格闘技のジムの方。バイトは寝しなにリモートのやつやるくらいか」 「ハードやなー」  家事を一手に引き受けているミツは家から出ずに済む仕事を掛け持ちしているらしい。コイツは頭の出来がおかしいからそういうことが出来るけれど、俺は無理だ。かと言って接客業とかが死ぬほど向かないからかなり苦労しているわけだ。  俺のバイト先は楽器屋とライブハウスのスタッフとファミレスの厨房。前ふたつは趣味と実益を兼ねて、ファミレスの厨房は客が苦手でも問題ないからな。 「いや、俺は肉体労働は無いからな。頭脳系なら家で出来るし分からんことあったら圭に聞けるし」  楽なもんだと笑ってみせるけど、ちっとも楽そうに見えないんだよな。  肉体労働だってやりゃ出来るだろうけど、体力の配分を考えてやらない選択をしているらしい。  軽音部に所属してる俺は放課後は大体第二音楽室でギターを弾いている。  そこはそこでコミュニティがあるわけだけど、全員音楽が好きなわけだから変に構えなくてもいいし気も楽だ。 「ねーねー四谷がつるんでる日南君て音楽やらへんの?」 「日南君いいよね~。この前荷物持つの手伝ってくれたけど気取ってなくて優しーし」  一学期が終わる頃になるとミツはバッチリ女子から人気になっとった。  幸村の弟っていうのも本人が隠さないもんだからそっち方面からも有名になったし、美形兄弟だってキャーキャー言われとる。女子に人気でも男の付き合いを優先するタイプだから男子から変なやっかみを受けることも無く、流石のバランス感覚を披露している。 「楽器は何か弾けるはずやと思うけど俺は知らん。コードやなくて譜面読むからそっち系の楽器やるとは思うけどな」 「そうなん?なら引っ張ってきてよ」  女子達はきゃいきゃい楽しそうだけど、ミツの生活を思えばバンドに割く時間は無いと思われる。そんなプライベートを教えるつもりもないから適当に流しておくけどな。 「幸村君は楽器やるのかな?」 「そら知らん」 「えー?四谷聞いてよ」 「話したことないしな。いきなりそんなん聞けん」 「そうなの?」 「そう」  俺は相変わらず幸村と接点を持たずに過ごしている。  ミツが女だったら話は違ったかもしれないけれど、取り敢えず男に恋愛感情を抱くのは無いからまぁアレや。幸村とミツの距離感が兄弟というよりはカップルのそれみたく見えてなんとなく尻がそわそわする。  幸村の方は至って普通なんだけど、ミツの方がもう恋する乙女っていうか、甲斐甲斐しく尽くす彼女っていうか、そんな感じだから普段のミツとの違いに変な気持ちになるんだよな。  俺にも同じ風にしてくれって思うかどうかといえば、そうでも無い。  このモヤモヤを引き摺りながら、このまま暫く過ごす事になる。
/361ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加