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夏休みに入ればミツどころか部活の連中くらいにしか会わないようになって、それはそれでいつも通りに暮らしてるわけだけれどなんかこう……落ち着かない。
俺には幼馴染とかいうほど仲のいい友達も居なかったし、近所の同級生と長期の休みにまで約束して会うなんて事もなかった。
たんまりと出た宿題をさっさと片付けてバイトに勤しむっていう選択をするのも当然だろ。夏は掻き入れ時だし、短期のバイトとかでよその高校のやつとも知りあってそれなりに楽しくやってる。それに夏はライブやフェスが多いから触発された奴が楽器を買いに来る事も増えるし、ライブハウスではバンドというのも烏滸がましいような学生が友達に演奏を披露したりするようになる。
そうするとまぁバイトとしてはシフトは増えて、働いてばっかだから金は貯まっていく。貯まった金を使って俺自身もライブを開くわけだから他人をどうこう言えないけど。
因みにミツをライブに誘ったことがない訳でもない。
申し訳なさそうに時間が無いと言ったから、引き下がって今に至る。ライブに来たくない言い訳ではなくて、本気でミツの時間は足りないんだろう。
ミツはバイトやジムの他に幸村の世話で忙しい。
幸村は別に世話されたいようでもなかったけれど、ミツは幸村に構いたくて仕方がないらしかった。
それが俺にはよく理解出来なかった。
「あ!四谷?明日の夜空いてる?」
クラスの奴から急に電話がかかって来て何かと思えば花火大会の誘いだという。近くでそこそこデカい花火大会が開催されて、それにみんなで行かないかってことらしい。
夜のバイトのシフトはまだ決まってないから、行かない理由も無いしまぁ良いかと了承の返事を返した。
「空いとる」
「じゃ花火大会行こうや!クラスの奴等何人か誘うから」
「おー」
「ミツに聞いたらその日はあかんて言うてたから四谷もかと思ったけど行けてよかったわ」
「あ?」
「お前らってバイト組やん」
「せやな」
「花火大会て人来るし、バイト入れとるかと思ったわ」
「俺は接客苦手やからな」
「あ、そうなん?」
接客業苦手でもバンドは出来るのかと笑われたけど、それはまた別の話だと思う。
それよりもミツが来ないって聞いてなんとなく気分が落ちた。
わかりやすく表現するならガッカリした。
「浴衣着てこうかって話しとるけどどうする?」
「浴衣は無理や。そもそも持ってへんし直前まで用事あるからな」
「そら残念」
久しぶりに話すと会話が弾むけど、やっぱり心のどっかでミツが来ない事が魚の小骨が喉に刺さった時みたくツキツキ痛む気がした。
でもって花火大会当日。
クラスの奴等って女子のことかい!
「お前ら……俺を客寄せパンダ扱いて、高いぞ?」
こっそり言ってやれば礼はするから帰らないでくれと男子諸君から拝まれた。
謝ってるくせに全員口元がだらしなく歪んでいるから、目当ての女子の浴衣姿にクラクラしていて俺の事なんかそんなに気にすることもないんだろう。目当ての女子が俺狙いで来ていたとしても気にならないあたりメンタルが強いな。いや、そんなのどうでもいいか。花火見ながら手でも繋げりゃ御の字ってやつだろう。
俺だって別に本気で責めてるわけじゃ無いしな。
「貸しイチやからな」
「四谷様~!」
調子のいい奴等だ。
会場まで全員で人でごった返す会場を歩く。
花火を見るスポットとやらに着いた。
俺は人酔いする方だから顔が険しくなるけど、花火が打ち上がって夜空に華が開くと俺の事なんか誰も気にも留めない。
パッと提灯に照らされた夜空に華が咲く。
赤い華に、青い華。
橙に黄色に紫に緑。
真っ黒いキャンバスに次々に光が咲いて、遅れて鈍い音が追いかけてくる。
クラスの奴等は目当ての女子とちゃっかりといい雰囲気になっていて、他人のことなんて興味無さそうな感じになってる。
赤い実が弾け飛んでんなぁ。
周りのカップルや親子連れもそんな感じで会場は夏と人の熱気でむんむんしている。そこへ屋台から何かが焼ける香ばしい匂いが漂ってきて、普段なら食欲をそそるはずだけど胃のあたりがムカムカして何かが込み上げかけて持ってきたペットボトルのスポーツドリンクをガッと煽った。
貧血じゃないはずだけど、人が多過ぎて酸素が少ないのか気分が悪くなってフラフラとし始めた俺の腕を誰かが掴んだ。
突然そんな事をされても振り払う力も無くて、チラッと確認すればそこには心配そうなミツが居た。
「千春!」
呼ばれた途端にふら~……っと意識が遠のいて、黒地に桔梗柄の浴衣の後ろでスターマインが炸裂しているのを視界に収めながら俺は気を失った。
目を開ければ、見慣れた天井で。
俺は自分のベッドを抜け出して一階へと降りていく。廊下へ出て気が付いたけどもう朝だ。
ぶっ倒れてからどうやって帰ってきたかだけど、胃が痛むような事しか可能性として浮かばない。
台所へ顔を出せば朝食を作ってる母親がもう大丈夫かと聞いてきた。
「昨日俺どうなったん?」
「熱中症で倒れたのよ。病院呼ばれたわ。でも私じゃあんた連れて帰れなかったからシュッとした綺麗な子があんた背負って連れて帰ってきてくれてね。あと、愛嬌ある八重歯の子」
「あー……」
やっぱりか。
ミツだけかと思ったけどそんな事ないよな。
それに、なんとなくだけどいい匂いがした。嗅いだこともないけど、多分ミツじゃなくて幸村の匂いなんだろうなって。
「お礼言っときなさいよ」
「うん」
「あの子達あんたの友達?」
「そう。八重歯の方がクラス一緒でよくつるんどる日南充。も一人の背の高い美形が兄貴で隣のクラスの幸村圭」
「あら、あの子達兄弟やったの」
「義理の兄弟やから似てへん」
「そうなの」
それ以上は何も言わないでおいてくれた。
あの二人は兄弟には見えないからな。
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