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別に幸村を避けていた訳じゃないけれど、こちらから絡みに行きはしなかったしあっちからも絡みに来たりももちろんしなかった。
花火大会の時のアレについてはきちんと礼は言ったけれど、無事でよかったなの一言で終わってしまって会話は続かなかったしな。
会話をしようとする欲よりも、なんでお前が家に居るんだ?みたいな雰囲気の方に不在時に家に上がり込んだ気まずさが勝った。ミツは俺が引っ張り込んだんだってフォローしてくれたけど、どうやら自分のテリトリーに他人が入り込む事が得意では無いらしい幸村はあまり良い顔はしなかったし、早々に撤退したから大した会話はできなかった。
二学期もそんな感じで付かず離れずどころか離れまくりでやってくんだろうなぁと思ってはいたんだけどな。
「んあ?」
「どした?」
昼休みに机の中を引っ掻き回す。
無い!
英語の教科書が見当たらない。英語の教師は日付と出席番号で当ててくるから今日はバッチリ当たる日で、これを答えられないとクラス単位で課題が出る。それってやってええんか!?って思うけど、実際そうなんだから仕方無い。
ヤバい!
「教科書忘れた」
当然周りからは非難の声が上がった。
うんうん。
わかるよ。
俺だって他の奴がやらかしたら心ん中でふざけんな!って叫ぶ。
「借りて来い!」
「隣り英語あったから隣や!」
「隣言うてもなぁ」
隣のクラスって、運悪い事に知り合いが居ないんだよなぁ。あ、居るっちゃいるけど教科書貸して♡って言える仲の知り合いじゃないんだよな。
その知り合いの身内が首を傾げてるわけだ。
「そんなん圭に借りてくりゃええやんか。予習とかしとるから書き込み凄いけど」
「「「行けーっ!!!!」」」
サラッとミツが放った言葉でクラスの連中から廊下へ放り出された。
うん。
わかる。
わかるよ。
ミツのアレは天然ていうか、俺と幸村の間に流れる気まずい空気なんか気が付きもしない。
なんならさっきのは助け舟のつもりですらあったのかもしれないしな。
とぼとぼと隣の教室へ向かう。
全く距離は無いけど足が重いせいでめちゃくちゃ遠く感じた。
居なきゃいいものをちょうど良く幸村が廊下へ出てきてしまった。
「おー幸村」
声を掛けてみれば案の定怪訝な顔をしてこちらを見た。
そりゃそうなるわな。
俺が逆の立場でもそうなるもんな。
「英語の教科書貸してくれ」
「教科書……」
呟いてから回れ右をして教室へ引っ込む。
感じ悪いぞー。
でも、ここで教室へ帰るわけにもいかないから黙って待つことにする。ほら、他の教室は立ち入り禁止だから。入って行けりゃやりようもあるけど引っ込まれたらなんにも出来ない。
黙って待ってたら手に冊子を持ってこっちへ向かって歩いてくるわけだ。そらもーこれどこのランウェイだ?ってくらいの綺麗なウォーキングでな。
「はい、どーぞ」
予想に反して普通に教科書を差し出してくれた。
顔は無表情だけれど、黙って教科書を貸してくれたってことは俺に対してそこまでの悪感情は無いんだろうか?
「助かるわ。今日当たるのに教科書忘れてのー」
「うん」
「次の時間終わったら返しに来るわ」
「ミツに渡しとけばいい」
言葉は端的でツンツンしてるけど、そういう話し方なだけなのかもしれない。
さっさと廊下へ出て背を向けたから、俺は頭ん中に閃いた言葉を投げてみた。
「便所か!急いでるとこ悪かったな!」
ちょっとしたイタズラ心ってやつだ。
肩をビクッ!と揺らした幸村がそのままゆっくりと振り向いたから、ニカッと笑って手を振ってやったらじっとりと睨まれた。
うん。
これはこれで面白いかもしれない。
舌打ちでもしそうな勢いで睨みつけてから階段を降りていったから、便所なんかじゃないんだろうなぁ。あ、最初から廊下へ出てきてたわけだから本当に何か用事があって出てきたところを俺にとっ捕まったわけか。
「やっちまったか?」
あの無表情が歪んだもんなぁ。
自分のクラスへ帰れば、スパンッと女子にツッコまれた。
何かと思えば幸村をイジるとかお前やり過ぎだ!とのことで。女子からは叱られたけど、男子からは何故か讃えられてしまった。
肝心のミツはと言えば、アッハッハと机に突っ伏して腹を抱えて笑っていた。
「すまん」
「なんで謝っとんの。圭のあんな顔初めて見たわ」
ゲラゲラ笑ってるけど、お前見とったんかい!
それ、幸村が見たら大憤慨するんじゃないんか?
「取り敢えず教科書はGET出来た」
「そらなにより」
席に着いて予習の為に開いた教科書にはミツが言う通り幸村の予習の産物がぎっしりと書き込まれていて、今日当たるところどころか全てのページが訳されているし、重要な単語には細やかにメモが入っている。
これは最早参考書だな。
なんとなくだけど、幸村は地頭の良さはもちろんとして結構な努力家なんだと思った。
んー……。
俺、結構好きかも。
もちろんLoveじゃなくてLikeな。Respectって言っても良いか。ほら、俺そういうの苦手だから。だまーってそういうの出来るやつって尊敬するんだわ。
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