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龍
全然別の話だが、と華道の大家は、静かな声で話す。
茶道という文化について如何程か?
そう問われて、昔、簡単なお作法を学んだ限りです
と彼は答えた。
大して意識していないどころか、美味しいお茶菓子とお茶が美味くて、ただ談笑しつつ、だべっていた。
それはお作法ではございません。
大家はそう、切り捨てる。
ヘェ?と眼を鋭い眼光で睨み返し、面白い話ですな?と意気込む彼がいた。
偉く乗り気である。
華道の道に進んだだけの門下に過ぎない底辺の下っ端。まぁ自分は本当に花が好きなだけ、それのみで、来た。だから、目的は花の鑑賞がメインだ。そのお手入れなどは、どうでも良い。
自分の考えがそれだけだった。
そんな良い加減な態度で此方へ来た。
決して、こうこうこういう明確な夢があった訳ではない。ただ、前の仕事から過労で逃げたくて来た。
その過程全てが、花道の大家からは、愚にしか映らず、そう言う良い加減な気持ちでして貰っては、私の信念を疎かにしている、と見做し、不快に映る。
彼は、華道を嘗めていた。
だから、彼は師の教えが、面倒臭いと感じた。
これは前もあったな?
と彼は前の師匠にも同じことを言われたのを、嫌というぐらいまた、思い出した。
あの時も、キレて逃げた。
そして、そこで暴れて、関係を斬りたくて、辞めた。
だが、逃げても追いかけて来る憂鬱な日々は、一人で背負うからだ、と今の師は、悟らせてくれた。
それは、彼の中でも、そろそろ自分の価値観に限界が来た事を物語って懲りた。寧ろ、また乗り越える壁が出来た事が、彼を暗くした。
彼は、闘争本能が人一倍、強かった依然とは比べ物にならない程、劣るようになった。
悪意のエネルギーが、彼を駄目にしたのだ。
大切な事は、自分自身がヤル気になる事だった。
負けそうだ…loser…
強烈な自負心が、彼を闇で覆った。
完璧主義者である事が気持ち悪くて、吐き気がして来た。
其れを要求して来る辺り、この婆さんきもいな?
良い加減と言われて、しれっとしていたが、内面は黒かった。
カッコわりぃな、それは
自分がダサかったコトを知り、彼はそれは出来ませんよ、時間がない。
カッコよさ?ハ?要らねーし。
英語では其れをCOOLと呼ぶらしいが、オレはクールと真逆の、ダーティだ。
スラングを使う外人に学んだ事だが。
茶道の嗜みの根幹は、型。
その枠に嵌るのが反吐が出る。
華道など、古い伝統芸能、新しい風が吹かないと、廃れる。
こんなシミのババアの言うことなんか、聞けねぇな?
茶道の精神は、戒めではなく、無の境地です。
古い、ウルセーBBA!!!
ガタッとテーブルが揺れて、椅子が砕けた。
自分の凝り固まった、固定概念が、ストレスを作る。
だから、其れを一旦、忘れて脇にやる。
そろそろ、時間ですね?
オレは、込み上げる憎悪を、押し殺しながら、時計を一瞥し、もう、終わりだと告げた。
時間が遅く感じた。
これ以上、古い感性を、受け入れると身体に毒だ。
無知を恥じない。
極めるとは、どういうコトなのか、そんな事シラねぇ
古木の老木の世界。
人間ではないモノに愛を捧ぐ?へへへ、笑えて来る。
人は愛せてますが、草木に愛が無かった。今の今まで、女を蔑ろにしたオレが、そんな善人のフリをするのは、忍びない。らしくない。
事実は事実として受け止め、彼は、家に帰り、後は寝て、忘れた。
ヤル気は、人に言われて起きるモノではない。
それは、しない方がいい。
ヤル気というのは、創意工夫が出来るから、沸くのだ、と今日面倒臭い仕事だと感じ、調べたら、そうらしいと知った。
日々、学び。
日々、これ精進也けり。
ヘッ、偽善ぶるのがこの界隈では、優等生。
彼は、悪童だったが、真っ当な職に就きたかった。
だから、らしさを捨てず、オレらしく、此処で、鼓舞する龍と成る。
それがオレらしかった。
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