体験談Ⅱ

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体験談Ⅱ

 私が初めて「ソレ」を意識したのは、幼稚園の頃のことです。  まだ両親と一緒の寝室で眠っていた私は、夜中にふと目が覚めたのでした。  寝たら最後。なかなか起きない子供だった私には珍しいことで、自分でも不思議に思いながら身体を起こすと暗く静かな部屋には両親の規則正しい寝息だけが聞こえました。  いつもの音。いつもの部屋。何一つ変わったことはない。  自分が何故目覚めてしまったのか不思議に思いながらも、眠気眼を擦りながらもう一度横になろうとした瞬間ふと視線を感じました。  目の前には私の背よりも高い洋服箪笥があるだけ。しかし、その上から確かに何かがこちらを見ていました。 「……お母さん」  いつもはすぐ起きてくれる母がその日は何故か揺すっても起きてはくれず、ドカドカと速くなる自分の心臓の音が耳元に響き恐怖が足元から身体を舐めるように駆け上がっていきました。   このまま寝てしまえばいい。  そう思っているのに、こちらを見ているモノを何故か無視してはいけないと思う自分がいて、息を潜めるように呼吸を止めるとゆっくりと顔を上げ箪笥を見上げました。  そこに、物を置いてはいません。なのに、黒い細長い影が暗闇の中でもユラユラと揺れているのが見えました。  ソレが何かもわからないのに何故か見つめ合っているような感覚になり、暫く見ていると暗闇に慣れてきた私の目が黒い影の形を認識した。その瞬間、私は呆然としていました。  細長い影は瓢箪のような形をしていて、頂点には横並びに小さな三角形が二つ。なだらかな括れの先には、細長く伸びるものがついていました。 「……猫?」  そう。細長い影は確かに猫の形をしていたのです。  当時、家には二匹の猫を飼っていました。きっと、そのうちの一匹が洋服箪笥の上に登ってしまったのだろう。そう思い胸を撫でおろしました。 「……びっくりした」  影の正体がわかりホッとした私は今度こそ寝ようと横になりました。すると枕元に猫が一匹。左隣に一匹。  その瞬間、吐き出した息を止めながら私はもう一度首だけをお越し箪笥の上を確認しました。するとそこには、確かにいたのです。  __いるはずのない三匹目の猫が。
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