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「ただの、夢ですよね?」
夢に、ただの夢とそうでない二種類の物があるのかと自分でも疑問に思う。だけど聞かずにはいられなかった。
「それはどうかしらね。私の願望が見せているのか。もしくは霊魂が夢の中に入り込むのか」
一瞬、この人ならどう見えるのかと考える。でも僕は霊魂という存在は信じてはいない。
__死んだら終わり。
それは僕自身の願望でもある。逆に霊魂を信じる人もまた、自身の願望なのだろう。
「あなたは、霊の存在を信じる?」
「……僕は体験したことがないのでなんとも」
正直、最初は否定することができた。しかし話を聞いてしまった今、本人の前では曖昧に答えることしかできない。だって、嘉吉山が見たその類いの物が何なのか僕には説明がつかない。なのに否定するということは、彼女の話を虚言だと言っているのと同じことになる。もしくは彼女の頭を疑っているか。
正直、嘉吉山は不思議な雰囲気はあるものの常識のある大人だ。だから僕もどう答えたら良いかわからなくなってきた。
方やもしそのような類いのものが存在するならば、一番に自分の前に現れる自信もあった。しかし現実は一度たりとも現れたことはない。ならば、存在しないのではないだろうかと思っている自分もいる。
「会いたい方は?」
「え?」
彼女がゆっくりと真っ白なソーサーに同じ色のカップを乗せた。微かな物音を理由に、もう一度聞き返した僕は答えを見つける時間を稼いでいた。
「幽霊でも会いたいと思う方はいる?」
俺は、あの人に会いたいか会いたくないか。まだ答えを見つけられずにいる僕の心を見透かしたように彼女はにっこりと微笑む。
「あなたが、会いたいと願えば思いつか会えるわよ」
__会いたいと思えば?あの人に会える?
「ただ、恐れないこと」
少し前のめりになると切れ長の瞳を細めながら、僕を見つめる。頷くこともできないまま固まっていると、彼女は速やかに立ち上がった。
「続きは、また明日でいいかしら?」
「……あ、はい」
カラカラになった喉から掠れた声を出すと、嘉吉山は伝票を細い指で摘み僕の目の前で一度ヒラヒラさせると優雅に微笑む。
「じゃあ、また明日」
取り残された僕は暫くその場から動けなかった。
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