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そして月日は流れ、あのマンションの話しを聞いた私はずっと気になっていたことを尋ねたのでした。
「あのさ。寮の子達のことを覚えてる?」
すると母は指を折り曲げながらみんなの名前を口にしました。
「Aちゃん。Bちゃん。Bちゃんの弟のD君。あとは、最初に転勤しちゃったCちゃん」
しかし、私の記憶の中にはもう一人いました。
「あとさ、最後の方に一緒に遊んでいた男の子がいたでしょ? 色白で長身の」
すると母は首を傾げながら笑いました。
「男の子はBちゃんの弟だけだっじゃない」
「そうだったんだけど。遊ばなくなった私をみんなが迎えに来てくれたことがあったじゃない? あの時に初めて会った子なんだけど」
「そんな子いた? 名前は?」
そこで、ふと不思議なことに気付きました。
グループに後から入った私はみんなに名前を告げた記憶があります。しかしみんなの名前を私は聞いたことがありません。元々、仲間だった子達が呼びあっているのを聞いてそれぞれの名前を知りました。しかし彼の名前は……。
__誰も呼んだことがありませんでした。
「……名前はわからないけど、Aちゃんといつも一緒にいた子だよ」
「Aちゃんと? お母さんはわからないな。みんなが迎えに来てくれた時も、窓から見てたけどそんな子はいなかったよ?」
そう言われた瞬間、両腕に鳥肌が立ちました。もう一つ。私は不思議な光景を思い出したのでした。
男の子はいつもAちゃんと一緒にいました。なのにAちゃんが男の子の名前を呼ぶことも、男の子がAちゃんの名前を呼ぶこともありませんでした。それどころか、隣にいても会話をしている姿を見た記憶がありません。
記憶の中の男の子はいつも無表情のまま黙ってAちゃんの側にいるだけでした。
「もしかしたら、引き寄せられちゃったんじゃない?」
母は苦笑しながら「同じ年頃だし楽しそうにしてたから」と、言いました。
その後、みんなと撮った写真を見ても男の子が映った物は一枚もありませんでした。
__あの男の子は一体誰だったのでしょうか。
みんながいなくなってしまった現在、確かめる術はありません。
しかし、今もマンションを見る度に私はあの男の子の顔を思い出してしまうのです。
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