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時計が零時になると内田君はレジの中へ入り、僕はフロアで仕事を始める。ピックアップと言って後ろに引っ込んでしまった商品を手前に押し出し綺麗に並べたり、少なくなった商品の補充をしたりする。
それが終わると今度は僕も一緒にレジに入り、雑談しながら時間を潰す。その後は先に内田君を休憩に行かせて、僕は一人でレジ番をする。それが大体の流れだ。
やっと、若い男が一人入ってきたと思ったらトイレだけ借りて帰って行った。祝日になるとそんな奴ばかりだ。それでも、防犯の為にレジ番をしないとならない。
店長もよく店を締める気にならないものだと関心する。何だかんだ、僕や内田君のような夜しか働けない人間に貢献してくれているのだろうか。ならば僕はより一層、フードロスに貢献しよう。
手持ちぶさたでレジ台の下にある袋を補充していると、店内に軽快なメロディーが流れる。
「いらっしゃいませ」
曲げていた腰を伸ばし顔を上げる。しかし客はいない。一瞬、その姿を探そうとしたけれど馬鹿らしくなってやめた。気にせずに袋の補充を続ける。すると、すぐにまたメロディーが流れる。顔を上げる。しかし客はいない。
__今まで、こんなことはなかった。
毎日のように夜勤をしているのに、二回連続センサーが誤作動を起こしたところを見たことはない。考えている間にも目の前で扉が開く。
「……三回目」
サーッと思考が向こう側に広がる闇に引っ張られていく。
“__あなたが、会いたいと願えば思いつか会えるわよ”
僕は望んでなんかいない。
“__ただ、恐れないこと”
望んでなんかいないのに、もしかして……。
「外で何かあったんっすか?」
ビクリと両肩を上げる。自動ドアを呆然と見つめている僕を、休憩から戻ってきた内田君が怪訝そうな顔で見ていた。
「……自動ドアがさっきから何度も開いて」
「そんなに客が来たんっすか?」
「……いや。客がいないのに開いて」
すると内田君は目をパチクリとさせている。
「壊れたんじゃないっすか?」
あっさりとそう言うと、真実を確かめることもせずにフロアへ出る。そしてピックアップを始める背中を見ながら思う。
__壊れている。
どうして僕は、そう思うことが出来ないでいるのだろうか。他に答えなんかあるはずがないのに、府に落ちずにいるのだろうか。
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