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「……呪いですか」
言葉の意味を噛み締めるようにそっと呟くと、彼女は艶やかな黒髪を揺らしながら小首を傾げる。
「父は健在だし、大袈裟なのかもしれないけど。それに、見間違いと言われたらそれまでの話よね。でも、それにしては共通の体験をしてる人が周りにいるのは不思議だとは思わない?」
「そうですね。僕の周りでは聞いたことがありませんし。何故、嘉吉山さんの周りに片寄っているのか」
「そうなのよね。でも、長男長女の呪いと名付けるには情報が少ないのよ。他の親戚とは疎遠だから連絡はとれないし、事実を確かめることも不可能。それに体験したのが私と父と叔父の三人となると、割合的に多いのか少ないのかも微妙よね」
そう言うと、優雅な所作でティーカップに入った紅茶を一口飲み込む。彼女の様子を窺いながら、僕はゆっくりと口を開いた。
「嘉吉山さんの体調と言いますかその……」
精神の具合いは、身体の具合いを尋ねるよるも幾らか憚られる。思わず語尾を濁すと、彼女は何ともないように朗らかに微笑む。
「心よね。あまり良くないわね」
「……そ、そうでしたか。何かすいません」
精神的に調子が良くない中、話を聞かせて欲しいと頼んでしまったことを後悔する。そんな僕の考えを読んだのか、彼女はより優しい笑みを浮かべた。
「私も、あはたと話すことで気が紛れるから。気にしないで」
残り僅かになったティーカップの中身に彼女が小瓶に入ったミルクを入れると飴色が柔らかな色になる。
ミルクティーに変化をとげた紅茶を見つめていると、彼女がふと思い出したように言った。
「そうだ。今日はもう終わり」
「え?」
「不思議な体験を話すのは、一日に一度だけと決めているの」
正直、今日だけで全ての収穫を終えることができると思っていた。だから僕は拍子抜けする。締め切りだって限られている。早く全ての話を聞きたい。
「……どうしても、ダメですか?」
窺いをたてるように、ミルクティーを嗜む彼女の顔を覗き込む。しかし、彼女は首を動かすことはない。
「あなたが、恐れてしまうかもしれないから」
確かに注意事項には「恐れないこと」と、強調はされていた。しかし僕は、こんな話でビビる程に弱くはない。
「僕は大丈夫ですよ」
すると、ティーカップを両手で包み込みながら上目遣いで僕の目をジッと見つめる。
正直、その漆黒の瞳で真っ直ぐ射貫くように見つめられる方が僕には恐ろしい。人に見られることが怖い。
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