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重大発表!
パララパッパラ~……
気の抜けたファンファーレが鳴っている。
パララパッパラ~……
「るせぇ……」
アパート裏の公園で、近所のガキがオモチャのラッパでも吹いているんだろうか?
パララパッパラ~……
夜勤明けで霞のかかった頭を枕の下に突っ込むも、ラッパ音は鋭く鼓膜を抉る。
「チッ」
窓は閉めているのに、オンボロアパートめ。
パララパッパラ~
「あー! うるせぇっ!」
薄い布団を跳ね飛ばし、身を起こせば、クラッと軽い目眩に襲われる。やべぇ。ここのところ、本当に寝不足だ。元より黒い体質の会社だったが、この不況で底の見えない暗黒になった。もう三ヶ月近く、ロクな休みなんかない。今日も今日とて、午後から遅番出勤だ。
パララパッパラ~
「っと、いい加減にしろよ……!」
何度目かの騒音に、一度啖呵を切った腹の虫がおさまらねぇ。
俺は、慎重にベッドから這い出し、朝日を浴びて淡く光るブルーのカーテンに向かって二、三歩進む。
パララパッパラ~!
「っつ!」
窓に近づいたせいか、キン、と脳天にまで響く。どんだけ大音量で鳴らしてるんだよ? 嫌がらせかっ!
ジャッ、と乱暴に握ったカーテンを開ける。差し込む光が眩し……――。
「なんだ、ありゃあ……」
外は暗かった。朝なのか昼なのか夜なのか。地上からすっかり灯りの消えた暗闇の世界。その遥か上空に、巨大な白いスクリーンが浮かんでいる。まるで深夜のオフィスで見るデスクトップみたいに、煌々と発光しているのだ。
パララパッパラ~!!
雷に打たれたような、全身を貫く衝撃。思わず両手で耳を塞いで蹲る。それでも、あの奇妙な空中のスクリーンから目が離せない。
『只今より、人類に重大な発表があります!』
目の前の窓ガラスがビリビリと細かく震える。両耳を押さえているのに、一言一句、はっきりと聞こえる。
巨大な投影機を使った、壮大な悪戯――?
一瞬過った憶測は、スクリーンに映し出された思いがけない文章に消し飛んだ。
『【朗報】この度、死後の世界にて“異世界転生制度”が解禁となりましたー!!』
「……え、今までなかったの?」
不慮の事故で亡くなった人は、異世界に転生して人生をやり直すことが出来る。
それは、我々の世界の常識だったのだが。
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