準備とナンパ

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新居の鍵は受け取った時に一本ずつ持った。 持ったから、服とか先に運ばれているかもとは思ったけれど。 「でか過ぎない?」 明日が都の部屋の荷物を運ぶ日だからと、掃除に訪れた都が目にしたのは、そこそこ広さのある寝室にどんどん置かれたクイーンサイズのベッドだった。 確かに都の部屋で使っていたマットレスでは、鶴橋は足が出ない様にちょっと丸くなってたけど。 シンプルなデザインは好ましい。 「…ふふ」 きっとこれだけは譲れなかったんだな。 でも大きいのは邪魔になるって言われる前に置いてあるあたり…可愛いじゃないか。 あれから一ヶ月と少し、都の仕事も四日前に退職済みだ。 鶴橋に話してはいないけど、彼は聞かなかった。 都のタイミングがある事を分かってくれているのだろうと思う。 床とクローゼットの中だけ軽く拭いて、真新しいベッドに腰かけた都は、まだ何も無い部屋を見回した。 必要最低限しか家具のない都の部屋から物を運んでも、色々足りないだろう。 使えるものは使って、あとは鶴橋と相談だ。 出来れば、日が出ている間の仕事を見つけて…夜は遅くなる鶴橋を迎えてあげたい。 職探しは難航していた。 贅沢言わずに男女が働く場所を選べばいいのだが、なかなか踏ん切りがつかない。 「だめだなぁ…」 一度の事で怖気付いてどうする。 でも、火のないところにに煙を立てて…もうそうだと決めつけて。 情けないけど、もうあんな思いは嫌なのだ。 ピコン。 『三日休み貰えたー!いぇーい』 明日の引越しから三日の休みをもぎ取ったらしい鶴橋から、浮かれたメッセージが送られてきた。 『バリバリ働いていただきます』 『いくらでも!』 晩御飯はお好み焼きよとメッセージを切り上げて、都は立ち上がる。 冷蔵庫の中身を色々入れたお好み焼きの準備をしなくては。 それから冷蔵庫のプラグを抜いて…。 やる事はいっぱいある。 明日からここで鶴橋と過ごすのだ。 落ち着いたら相談してみよう。 『もうすぐ帰ります』 そうメッセージがきた。 気が早いなぁと笑って、明日からはこのメッセージが当たり前になるのだと思った。 『行きます』ではなく、『帰ります』になる。 彼のそばに居るのだと、帰る場所に当たり前に存在する事になるのだと思うと、きゅ、と胸が締め付けられた。 つんつんしてても、可愛くない事しか言えなくても。 自分は間違いなく彼に恋をしている。 そう思うのだ。
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