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「ここと、ここ…どうかな?」
ふたつほど目星をつけた所を鶴橋に見せて見ると、答えはすぐ返ってきた。
見ているのは間取りじゃなくセキュリティ。
「ああ、いいっすね…ここの不動産屋に問い合わせてみましょう、案外ダミーで部屋が無かったりするんすけど…だいたい条件を提示すれば見つかりやすいし」
言いながらもう携帯を取り出した鶴橋は、ふと手を止めた。
「…これ、名義どうしたいですか?」
職業柄、借りにくいのだろうか。
「私借りる?」
「いや、一応会社員なんすよ俺。名前使うのは問題ないんすけど…親御さん心配するでしょ、何かで目にした時俺が転がり込んでる方がいいっすね」
都の両親は九州だ。
こちらに様子を見に来たのも、新卒のその年だけで。
農家をしていて多忙な両親が、新居を見に来る確率は限りなく低い。
でも。
「ありがと…でも、カズの名義にしておいて」
「そうっすか、わかりました」
鶴橋は頷いて電話をかけ、空室の有無を確かめた。
やはり一軒は内見が出来ない状態だったけれど、鶴橋は丁寧な口調で対応し、条件に合うその他三つほど物件の確保をさせて電話を切った。
「…ねぇ一馬」
「はい?」
「いつもの軽ーーーーいのと、今の。どっちがほんと?」
へ?と鶴橋が首を傾げる。
見つめ合って数秒。
「えー、そりゃもちろん、今っす」
当たり前じゃないっすか、と鶴橋が都を抱き上げた。
「ちょっ、何急にっ」
「えー、都さんも食べたいって言ったっしょ?俺」
本当に犬かと突っ込みたくなる仕草で、歩きながら都の首筋の辺りに顔を埋める鶴橋。
「あー、すっげぇいい匂い…」
あっという間にベッドの中だった。
一度目とは違い、鶴橋はじゃれる様に都を抱いた。
快楽を得るよりも触れていたい、くっついて居たい。
そんな抱き方だった。
緩やかにのぼりつめると、鶴橋は都をすっぽり抱いて満足気なため息をついた。
「すっげぇ楽しみ…都さんとずっと一緒に居られる」
すげぇ幸せ。と呟く。
「…一馬、荷物どれくらい?」
「ああ、俺服持ってくるくらいっす、ボスの所にも服しかないんで」
「そう、じゃあ引越しまでに収納出来るラック用意しなきゃ」
「あ、内見いつがいいっすか?俺とりあえず明日連絡するって言ったんすけど」
「昼間ならいつでも…カズ…眠い」
鶴橋の体温は本当に眠気をさそう。
今にも瞼を閉じそうな都を、鶴橋は嬉しそうに抱き込んだ。
「寝ていいっすよ…日付け変わる頃俺事務所帰りますけど…また明日連絡するから」
「ん…テレビラックの引き出しに…合鍵あるから…それあげる…おやすみ」
まじっすか?!
と喜んだ声には答えなかった。
起こさずに帰る感じの会話に、それこそセキュリティはどうするんだと思ったけれど、それも言わずに鶴橋の胸に擦り寄って目を閉じる。
引越しは早い方がいい。
この温もりは本当に癖になりそうだ。
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