引越し

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「ねぇカズ…頭の中で怪獣と戦ってるんだけど」 「あー、確かに…目を閉じてもなんか動いてる…」 さすがに寝ようと二人でベッドに潜りこんで。 あまりに熱中しすぎて目を閉じても画像が浮かんでしまう。 「やってみたら面白いのね、ゲームって」 「ふっ、くく、都さんムキになるんすもん…ふふふ」 準備を整えて行こうとする鶴橋と、一回行ってみないとわからないぞ、と突進する都は正反対だった。 「あー、目が疲れた…明日はちゃんと荷解きしなきゃ…」 「大きいのは俺がやるから、都さんはぼちぼちでいいっすよ」 ぽんぽんと背中をあやされながら眠りに引き込まれていく。 …また小さな不安が心に灯る。 こんなに甘やかされて、大丈夫だろうか。 もし突然別れが来たら。 世の中の恋人達はみんなこうなのだろうか。 幸せと不安が交互に心を掻き乱していくのか。 「カズ」 「…はい?」 しんと静かな部屋に、自分で思うより甘い声が揺れた。 「キス、したい…」 鶴橋は答えずに唇を塞いだ。 ふわりと羽が触れる様なキスは二度目に触れる時にはもう深くて。 背中に回った力強い腕が更に都の身体を引き寄せた。 互いの吐息を分け合って長いキスをした。 「…都さん、好き」 「……わたしも」 離れられなくなっていく。 こうやって、少しずつ。 二人きりの時は、微塵も感じない鶴橋の職業。 でも家を一歩出れば、文字通り戦場を歩く男だ。 いくらふざけても、子供みたいな時間を過ごしても。 「ねぇ都さん」 「…ん」 「仕事、してた方が落ち着く?」 ん? とぼんやりとその言葉の意味を考えた。 「ん、なに?」 ちゅ、ちゅ、とこめかみや瞼にキスを落としながら鶴橋が遠慮がちに囁いた。 「…どこにも、出したくないんすよ」 「……え?」 「同棲してる状態で、言っていい事じゃないのは、重々承知してます…けど、俺頑張ってもっと稼いで来るから…家にいて貰えませんか」 その頑張るは、もっと危険になると言う事で。 「…そんなの駄目」 仕事も見つけられていないくせに、間髪入れずに出た言葉はそれだった。 「…そう…っすよねぇ…」 わかっていたと、苦笑いを含んだ声が…ため息と共に額に触れた。 「…でも、そんな遅くならない時間に帰れる仕事、見つけるつもりだから」 だから、出来ればあなたも早く帰ってと言う言葉は飲み込んだ。 夜が本番みたいなものなのだ。 「ごめん、都さん…今の、忘れて」 「…うん」 鶴橋の出したくないは、どう言う意味だろうか。 きっと都とは違う。 自分はそれを鶴橋に言えないのだ、どんな意味だと聞くのは気が引けた。
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