相手のための嘘

1/3
前へ
/128ページ
次へ

相手のための嘘

 自分を膵臓がんだと確定診断してくださった医師会病院の先生を主治医にすることにしたよ、と母が言いました。  そんな折。  地元の新聞に、県内にあるU総合病院が最先端の医療機器を導入したという記事がました。  何でもそれを使えば、今まで放射線治療は不可能だと言われていた癌患者も、放射線治療が可能になるとか何とか。(従来の機器よりも、かなり細かく的確に照射箇所の照準が合わせられるようになったような、そんな記事だったと薄らぼんやり記憶しています)  ステージⅣaの母は、当然手術も放射線治療も対象外。  抗がん剤だけが唯一の治療法だと主治医から言われています。  でも、でも、でも……。  もしかしたらその最先端の機器をもってすれば、母も放射線治療が出来るんじゃない!?  そんな思いで、一縷(いちる)の望みをかけてその病院を受診してみることにしました。  2008年3月22日のことです。  その日、父はどうしても外せない仕事があったので、私が愛車に母を乗せて高速を飛ばし、市外の病院へ連れて行くことになりました。  慣れない道を運転するのは緊張しましたが、母のためと思うと不思議と頑張れました。  着いた先のU総合病院の先生に、医師会病院からもらってきたデータを見せたら、母のガンにはくだんの最新機器は使えない、治療方法は医師会病院が言うように抗がん剤しかないと思います、と言われてしまい。  その説明を受けた母は、「まぁ出来ないなら仕方ないよね。母さん、出来る治療を精一杯頑張るよ。うなちゃんの花嫁衣装を見るまでは死ねないし、ガンなんかに負けてらんないから」とニコッと微笑みました。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加