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折悪しくその日は20日で。
当時会社を経営していた母の両親は支払日に当たるため、どうしても出社せねばならず。午前中、母の傍を離れなければいけませんでした。
祖父母不在のまま母の死を招くかもしれないモルヒネ投与はどうしてもできませんでした。
母さんもきっと、大好きなお父さん・お母さんに見守られて旅立ちたいと望んでいるはずだと思ったからです。
祖父母が用事をすべて済ませ、病院に再び駆けつけてくれるまでの数時間、母は本当に苦しそうでした。
呼吸とともに漏れ出るうめき声は個室の外にいても聞こえるほどに大きくなっていきました。
お腹にたまった腹水は、およそ生きている生き物の体液のにおいではない悪臭を放つようになっていましたし、それだけでも綺麗好きな母としてはきっと耐えられない苦痛だったと思います。
看護師さんも数時間おきに母の腹水が漏れ出る傷口のガーゼを取り替えに来てくださいましたが、それ位で緩和されるようなにおいではなくて。
少しでも母の尊厳を保ってあげたい。
その一心で大雨ではありましたが頻繁に窓を開けて換気を心がけました。
瞬きすることなく半開きになったままだった目はどんどん乾いていき、何度濡らしても色が変色してくるほどで――正直見ていられませんでした。
看護師さんに頼んで水気を含ませたガーゼを目の上に載せて頂きました。
どのくらい効果があったかは分かりませんが、私たち家族にはそのぐらいしかしてあげられなかったのです。
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