研修医の暴言

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 私も父も余りの事に放心状態で。  母がポツンと「もういい……。母さん、家に帰りたい」と言った声だけがやけに耳に残りました。  研修医はそんな母に「そう? じゃあ何も処置しないけどいいよね?」って。  モルヒネ飲みまくればいいって言った人に何の処置をしてもらうの?  痛み止めの注射でも打ってくれる気だった?  人間、余りに酷いことを言われると、逆に何も言えなくなってしまうんだと思い知りました。  タイミングが悪かったとはいえ、こんな最低な医者と対面させてしまった母に申し訳なくて……情けなくて……。  父とふたり、母を支えるようにして一言も発さず診察室を出たのを覚えています。  どうしようもない怒りがこみ上げてきたのは家に帰ってから。  モルヒネが効いたのか、母は眠ってくれました。  でも……私も父も怒りで眠れなくて――。  あんな人間が今から医者になって患者に対峙(たいじ)するのかと思ったら、心の底からゾッとしました。  医者は病気だけ診てればいいわけじゃない。  患者の心にも寄り添える人になって欲しい。  そう思ったのを覚えています。
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