1. お気に入りの隠れ家

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 隠れ家には、いろんな人が遊びにくる。両親や祖父母、フィンリーや犬のノートンも。友達との集まりの場になることもしばしばだ。  今日はヘザーがやってきた。ニューイヤーを迎えたばかりの、1月の初めのことだった。ハンガリー系のユダヤ人であるヘザーは、グレーベージュの短めのアンニュイな髪型で、中性的で端正な容姿をしている。今朝彼女のガールフレンド的存在のペテュニアが、私たちのためにアップルパイを焼いてくれたから届けてくれたらしい。ヘザーが持ってきたアルミの包み紙をテーブルに乗せて開いた瞬間、真っ黒焦げの円盤が現れて驚いた。 「彼女なりに頑張って作ったらしいんだけど...」  いろいろ突っ込みたいところはあるけれど、まず、申し訳なさそうに項垂れる目の前の友人をフォローしなければならない。 「まるで墜落して黒焦げになったUFOみたいで、面白いじゃない!」  私は家のキッチンからナイフとフォークを2セット、皿を二枚持ってきた。その黒焦げの円盤を、ナイフで半分に解体する。じょりじょりという音がする。中身のアップルだけを取り出して食べるてみると、それほど悪い味でもない。  わたしの向かいに座ったヘザーも、ゆっくりとそのアップルパイの中身を口に運んでいる。 「だけどいいなあ〜、こうやって料理をしてくれる相手がいるって」  この頃よく思う。もし私に運命の相手がいるとしたら、いつどこで出会うことになっているのだろうと。その相手は料理が得意だろうか。どんな顔で笑うんだろうか。日干しした毛布みたいな、そんな居心地だったらいいなとか。  そこまで考えた後で、ふと、スノウの顔が浮かんだ。スノウは、クリスティの幼馴染のオーロラの二つ下の義理の妹だ。2年ほど前、友人であるクリスティの個展のスタッフとして働いている彼女を見かけて、可愛いなと感じたのが第一印象だった。個展の打ち上げの時少しだけ話をしたが、印象通り細やかな気遣いのできる優しい少女だった。  スノウはこの頃、ロンドンにある著名な芸術大学に入学したらしい。同じ大学の音楽科に通うピアニストのローレルと共に、アパートでルームシェアをしながら暮らしているという。 「ねぇヘザー、これからスノウの通ってる大学に行ってみない?」 「どうしてまた?」  急な提案に、案の定ヘザーは怪訝な顔をした。 「何となく、スノウがどんなとこに通ってるのか見てみたいなーって」 「会いたいだけだろ? 単に」 「まぁそうだけど」  言ってしまえばそうだ。スノウに会いたい。最後に会ったのは1ヶ月前、オーロラ宅で開かれたスノウの入学を祝うパーティでのことだった。私はオーロラともスノウとも特別仲が良いわけではなかったけれど、スノウに会いたい一心で、クリスティにお願いしてオーロラの家で開かれるパーティにはたびたび顔を出していた。そうしているうちに、スノウとも少しずつ打ち解けることができた。  入学パーティーには、スノウの高校の友達であるローレルとインディゴも来ていた。 「別にいいけど、変装してかなきゃじゃない? 有名人の私らが行ったらえらい騒ぎだよ」
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