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これは私がまだ新人だった頃の話である。
「あら、○○さん?」
声を掛けられ、私は振り向いた。
後ろには女性のお客様がいた。少し不思議そうな顔をした後、彼女は言った。
「あら、ごめんなさい。レジの○○さんと間違っちゃった」
○○さんと私は背格好と髪型が似ていた。後ろから見たお客様が間違ってしまうのも無理はないと思われた。私は笑顔で気にしていないことを伝え、その場から離れようとした。 が、お客様は私にまだ話しかけてきた。
「本当に○○さんに似てるわね! よく間違われない?」
間違われたのはこれが初めてである。
「今こうして見ていても○○さんだと思っちゃうわー」
基本的にお客様のお話を否定したり腰を折ったりしてはいけない。接客業の掟である。
しかし、私は言ってしまった。
「○○さんより十歳以上若いんですけどね」
お客様の笑顔が凍り付いた。
感情を抑えられなかったまだ若かったあの日。ほろ苦い思い出である。
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