お客様との距離

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お客様との距離

 お客様との距離。これは難しい問題である。つっけんどんでもいけないし、馴れ馴れしくてもいけない。  ある夜のことだ。アラフォー女性パートさんのレジに年配の男性が並んだ。 「こりゃあ、レンジでチンすればいいんかい?」  お客様はレジの人に尋ねていた。 「はい。チンすれば食べられますよ」 「そうかい、そうかい、チーンすればいいんだな」 「はい。チンすれば大丈夫です」 「マーンじゃダメかい?」  これは、間に入った方が良いだろうか。そこそこの年齢である私は身構えた。が。 「マーンじゃダメです」 「そっかー。マーンじゃなくてチーンじゃなきゃダメかー」 「はい、チーンですよ、マーンじゃないですよ」  二人の会話は弾んでいた。他にお客様が並んでいれば会話を止めることもできるが、夜である。他にお客様はいなかった。  二人はしばらく「チーン」「マーン」を繰り返した。そしてお客様は上機嫌でお帰りになった。  今でも思う。また同じ事が起きたら、私はどう対処したら良いのだろうか。  接客業、最大の課題である。
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