誕生

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誕生

 私は八十歳でこの世に誕生した。  と言っても当然私に産まれた当時の記憶があるわけではない。のちに母から聞いたことによると、私はずいぶん下痢をしやすい老人だったらしく、頻繁に紙おむつを交換する必要があったということだ。  私の産まれたばかりの写真も残っている。額には「川」の字を横にしたような深いシワが入っており、頬は赤黒く、口をだらしなく半開きにしており、その無様な老人の姿が昔の我が身と認めるのはいささか勇気の要することであった。
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