七十五歳

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

七十五歳

 いつのころからかは記憶にないが、私は老人用の車椅子を卒業して、壁やテーブルに手を突きながら自力で歩行できるようになった。または、父母に手を引かれて。  といっても、そんなことはわざわざ特筆すべきことではないのかもしれない。誰もが同じ道を歩むのだ。  私は七十七歳の春より、デイサービスの老人ホームに通うことになった。月曜日からから金曜日の毎朝八時三十分、家の前にて待機していると、きらびやかに塗装さらた老人ホームの小型バスが迎えにやってくる。  差し出された老人ホームの職員の手を取り、私はバスに乗り込む。  今はもう彼のフルネームを思い出すことはかなわないが、「まあくん」というニックネームの男性老人と私は馬が合ったようで、私はいつもバスではまあくんの横の席に座っていた。  デイサービスは、私にとっては少し退屈だった。与えられた紙に絵を描いたり、職員の演奏するオルガンに合わせて歌を歌ったり。時には、季節ごとの行事というものなのだろうか、豆撒きやクリスマス会などもあり、夏の季節には短冊に願い事を書いて笹の葉に飾るなどということをやった記憶もある。  ちなみに私はその短冊に「おかねもちになりたい」という願いを書いた。ずいぶんと嫌な老人だったに違いない。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!