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「ああああああああああああああああああもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうざあああああああああああああああああああああああああああい!」
「……落ち着けマサル。言いたいことはわかるが」
「だってさああああああああ!」
うがあああ、と僕は叫び声を上げた。目の前には僕が“親分”という仇名で慕っている先輩がいる。彼はこの地域の元締めのような存在だった。年齢は尋ねたことはないが、僕が生まれた時にはもうジジイだったようなので、今はハイパージジイなのはまちがいないだろう。
此処は、公園の裏門前。人気が少ないしベンチもあるので、ょっとした会議をするにはもってこいなのである。僕がテーブルに顎を乗せてうだうだしていると、そんな僕の額をぺしりと叩いて親分が言った。
「気持ちはわかる。儂だって困っておるのだ。なんせあのユーチューバーどもときたら、人を散々集めて静かな公園を騒がせるわ、ゴミはポイ捨てするわとろくなもんじゃない。おかげで儂は昼寝もろくにできやしない」
「ああ、親分の家、公園のすぐ隣か」
「そうだ。ジジイにとって昼寝がどんだけ大事かわからないはずがないというのに、けしからん若造どもめ!」
ぷんぷん怒る親分。
そう、今自分達を悩ませているのは、あの池にやかましい連中が集まってくることなのだった。それも、オカルト系ユーチューバーとかいう連中が、である。彼らは五月蠅いし、動画を使って発信するせいであの池に野次馬が集まる原因を作る。さらには、集まってきた連中がこれみよがしに騒いだりゴミを捨てていくので、公園を憩いの場とする自分達は大迷惑なのだ。
なんとかしたい。それは親分も、それから僕や友人達にとっても総意なのだった。
「それもこれも、あの池が赤く染まるようになってからだよ」
ふんっ!と鼻息荒く僕は言った。
「なんかさーさっきのユーチューバーの人達もさー。昔からの伝説なんちゃらとか言ってるけど、ぶっちゃけ池が赤くなるようになったの一カ月前だっつーね。それまでそんな話まったくなかったのにさ!」
「そんでもって、奴らの調査もなかなかガバガバで笑ってしまうな。取材しにくるやつらが語る怪談が、毎回違うパターンで非常に面白いぞ。この間は、真っ赤なドラゴン退治した勇者の話になっておったわ」
「ドラゴンってここ日本なんですが?」
「伝説の悪魔の血で汚れたケースなんかもあったなあ。まあ、一番多いのが男女の心中だが。男の首が斬り落とされてぴゅーっと池の中に飛んでいった時の血だとかなんとか」
「女の人の力で男の人の首ってそう簡単に切り落とせるもんなのかなあ……」
一体どんだけのパターンがあるのやら。僕は頭を抱えるしかない。
解決策は一つだとわかっていた。ようは、池の怪異がなくなれば、連中の興味も廃れるのだ。三時のおやつの時間に、池が真っ赤に染まってしまう現象が起きているのは事実なのだから。
「……親分、親分。池の怪異、なんとかならないかなあ。アレがある限り、延々とあいつらが来て迷惑かけてくると思うんだけど」
僕がジト目になると、親分はしばし考えた後で言ったのだった。
「ふむ、そうだな。……では、除霊するのがよかろう。お前が」
「僕がやんのかい!」
「何、お前は幽霊が見えるはずだ。見えて交流できるなら、やりようもあるだろう。あのユーチューバーどもを参考にすればいい。例えば……こんなやり方はどうだ?」
ごにょごにょごにょ、と親分は僕の耳元に口を寄せて囁いた。僕は目を見開く。
「え、え?そんな方法でいいの……?」
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