僕等の家にホラーはいらない!

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 ***  確かに、僕は小さな頃から幽霊がふつーに見える。多分生まれつきそういう血統なのだろう。ふよふよ浮いている浮遊霊なんか見慣れすぎて、いちいち気にも留めないのが実情だ。まあ、ゾンビっぽいグロテスクな幽霊が通り過ぎたらさすがにびっくりするけれど、大抵の浮遊霊は人間とさほど変わらない姿をしているからそこまで怖くはないのである。  ちなみに、何故か人間の霊と比べて動物の霊は極端に少ないのが特徴だ。多分、人間みたくうだうだと未練を残して死ぬ奴が少ないからなのだと思われる。 ――はあ、気が進まないなあ。  実は、この怪異の原因を僕と親分は早いうちから突きとめていた。というか、早々に見えていた(親分も若干程度の霊感はあり、見える時もあれば見えない時もあるというタイプである)。いつも池の前のベンチに座って、うらめしそーに池を見ている女の幽霊。彼女が犯人であるのは明白だった。  何故かって?  そりゃあ、赤いペンキ?っぽいものを頭からかぶって髪の毛が真っ赤に染まった姿で三時に現れる幽霊といったら確定だろう。こいつが何かやらかして、池が染まるようになってしまったのは明白だ。  まあ、一カ月前という時期を考えれば、大体想像はつくのだが。 「……もしもーし、お姉さん?」  幽霊には面倒くさい奴も少なくない。できれば触りたくはないのだが、地域の平和を守るためにはこれもやむなしだろう。  僕がそろりそろりと近づいていって尋ねれば、彼女はぎろりと僕を睨みつけてきた。 「何か用?私は忙しいんだけど」  いや、いつも池睨んでるだけやん、とは心の中だけで。ツッコミいれたら話が長くなりそうだ。 「お姉さん、幽霊でしょ?早く成仏したいんじゃない?僕、協力してあげようと思ってさ。何で地縛霊になっちゃったのか、教えてよ」  可能な限り穏便に、穏便に。笑顔を作って尋ねれば、彼女は苛立ったようにそっぽを向いた。 「何であんたに話さなくちゃいけないの。私は此処にいたくているのよ」 「でも、悪霊になりたいわけじゃないでしょ?」 「そりゃそうだけど。……私を振ったあの人に嫌がらせしてやろうとして、思い出のこの公園に大量のインク持ち込んで池に飛び込んで狂言自殺をやって慌てさせてやろうと思ったら、まさかの本人が寝坊して約束の時間に遅刻してこなかった上に、私はうっかり足を滑らせてインクごと池に転落して池の石に頭をぶつけて死んじゃった……なんてこと、あんたには関係ないでしょうが!」 「いや全部喋ったけど!?」  な、なんて不憫な最期だ。僕は呆れ果てるしかない。多分、大量出血を演出するために赤いインクを持ちこんだのだろうが。結局それを自分にぶっかける羽目になって、しかも彼に目撃しても貰えないなんてなんとも残念すぎるではないか。 「ああああもう本当に腹立つ!あいつが大好きなおやつの時間を私色に染めてやろうと思って三時に呼びだしたのにいいいいい!」  そして地団太を踏み始める女。そういうところがフラれた原因なんじゃないの、と思っていても言わない優しい僕。  しかし、一カ月前池の水全部抜いて大掃除していた理由がそれだったとは。清掃業者の皆さんは本当にお疲れ様である。 「……腹が立つのはわかったよ。でも、この池に居座り続けるのはやめた方がいい。さっさと成仏した方がいいって」
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