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それにこの子の場合、警戒しなきゃならないのは男だけじゃないのがまた面倒だ。完全に女だけの集団っていうのもそれはそれで実は心配になる。
中学の頃のだりあを思い起こすと。必ずしも女子となら絶対上手くやっていける、って断言できないからなぁ。外見のせいで入り口から爪弾きにされると、本人の性格や立ち回りがどうでも最初から敵意を持たれてどうしようもなくなる可能性がある。職場虐めのターゲットになるような事態は絶対避けたい。
普通に考えたら今は中学生でもないんだし、職場にいる人たちもみんな大人なんだから。あの頃みたいにちょっと人より可愛いってだけの理由で仲間に入れてもらえないなんてもうないよ、って言えたらいいんだけど。…そういうとこ、やっぱり度し難いのが人間だからなぁ…。
まあ、女子ばっかりって会社はどちらかと言えば少数派だし見ればわかるから。やっぱり中小企業を選択するとき圧倒的に多いのは男多数派の職場だ。それを念頭に置いてだりあのその突っ込みに真面目に応えた。
「自分が就職する立場なら男女比とかはそれほど気にしない。それより仕事内容とか待遇とか、多分そっちを重要視するよ。男ばっかの中に放り込まれても別にプレッシャーに負ける気はしないし。少しくらい嫌がらせされても仕事ちゃんとすりゃいいんだろ、余計な接触してくんなよとしか思わないかも。犯罪行為ならそれはそれで表に出して闘うし」
「それはそうだろうね。うゆちゃんくらい強ければ。わたしもどんな会社行っても誰にも心配かけないで。それなりに何とかやってけるんだろうになぁ…」
きっぱり断言するわたしの台詞に即、納得する表情を見せて遠い目をするだりあ。斜向かいに座る奥山くんがわたしたちのやり取りを耳にして思わず箸を止めた、といった趣きで慌てて横から口を挟んだ。
「いや、…強いといっても。個人で集団に対抗するにもさすがに限度があるから。できたら羽有ちゃんにも、就職するときは一応そこは気をつけて会社選んでもらわないと…。闘わないと生きていけない環境をわざわざ選択する必要ないよ?日本にはいくらでも。ちゃんとまともな会社だってあるんだし」
「それはそう。だりあが健康で幸せに仕事して、生活の糧を得られる会社だってきっと普通にある。今までみたいにクソみたいな環境ばっかり引く運が永遠に続くわけはないんだからね」
娘を何としても守ろうって意識が正直希薄そうな家庭、トラップみたいな地雷の男に目をつけられた高校時代。その結果言いようもなく酷い目に遭わされたこの子の社会人時代に思いが及んでつい苦いものを噛んだような顔つきになってしまう。
一方でだりあはと言うと、わたしにそうはっきりと決めつけられるのも不満らしく口を尖らせてぶつぶつと反論してきた。
「え、別に。今までのわたしの周りがいつも常にクソだったとかそんなことはないよ!地元で働いてた会社はみんないい人ばっかだったし。それに中学んときは全然楽しかったもん。うゆちゃんと一緒で。奥山くんに憧れてて、クラスでも越智くんやその友達はみんな、親切で優しかったし…」
男の子たちばっかね。うん、上手く姫ポジに収まれると。普通に丁重に扱われて、安全に過ごせるって利点はある。何かの拍子で理不尽に手のひら返されると怖いけど。
「過度にちやほやもされずに普通に接してくれるような人たちだと助かるね。まあ、とりあえず採用通知が来ればの話だから。どのみち不採用ならそこは切り替えて次に行かないとだし。今のところはまあ悪くない印象だった、でいっか。返事はいつ来ることになってるんだっけ?」
わたしは食べるのがやたら早い。越智はともかく、奥山くんよりはだいぶ。だりあよりは何食べてるときでも相当に早い。さっさとお皿の上に残った麺と具を最後に手早く箸でまとめて片付けると、手を合わせて無言でご馳走様でした。と心の中で呟いて、だりあに話を振った。
彼女は見たところ半分以上は冷やし中華の残ってる皿に箸を伸ばしたところで一瞬手を止めた。それからちょっと気重な表情でその問いに答える。
「一両日中にはご連絡しますって言ってたから…。それってせいぜい今日中ってことだよね?明日になることはないか…。あー、やだな。はっきりした結果が出るのって」
宿題を終えてないのに夏休みの最終日を迎えた小学生みたいに思いきり顔をしかめた。
「今まで面接受けた会社の中で、正直一番ここがいいなって直感で感じたとこなんだよ。でもそれって、他に受けた人もみんなそう思うってことだよね絶対…。競争率高そうだから無理かなぁ。不採用って言われちゃったらまた全部やり直しか。…こういうのっていくつも続くと。だんだんメンタルやられて来るよねぇ…」
「まあ。…言うほどまだ受けてないじゃん、会社。世間では30とか40、下手すると100社とか。爆死連敗する場合もなくはないそうだから…」
明日は我が身。わたしだって、来年にはもう就活始まるしな。文系大卒女子ってだけでやっぱり不利だよね。と考えつつ一応フォローしたけど。だりあはわたしのその台詞で大して気分が上がったようにも見えない。
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