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「さすがにそこまで連続で落ちたら半端なく凹むよ…。もしそうなったらもっと、志望する会社の条件妥協すべきなんだろうな。あと必ずしも事務職にこだわらない方がいいのかも。接客とかサービス業なら。きっとわたしでも構わない、ってくらい常に人手不足だろうし…」
弱気になるにつれて、台詞の後半次第に声も小さくなっていく。わかりやすい。
いつもながら、やけに綺麗な食べ方をする奥山くん(多分育ちがいいから)が上品な箸遣いで要領よく皿の片隅に麺と具の残りを寄せながら慰め顔にフォローを入れた。
「まあ、まだ全然焦る段階じゃないと思うよ?全部で10社も受けてないでしょ。こういうのは縁とタイミングだから。決まるときはぽんと呆気なく決まるんだよきっと。せっかく頑張って資格とったんだし、それを活かせる仕事の方がいいに越したことないんじゃないかな。他の業種志望に転換するのは、もっと粘ってみてからでいいと思うよ」
とっくに食べ終えてたわたしも頷いて立ち上がり、さっさと自分の分の空の皿をキッチンのシンクへと運びながら彼の意見を援護する。
「そうだよ。今までやってきた仕事の経験だって、活かせるんなら活かせた方がいい。諦めるのはまだ早いと思う。…それと、あんたに限っては接客業は正直反対。不特定多数と接点のある仕事は避けた方が無難だよ。向こうから変なやつに目をつけられる確率は、可能な限り下げておかないと。また巻き込まれ事故に遭うよ」
「またそんなこと。…東京じゃわたしなんか。全然よくいるレベルで目立たないと思うのに…。うゆちゃん、考え過ぎだよ」
ぶつぶつ文句言ってる。行き過ぎた謙遜とかじゃなくて、おそらく本気でそう思ってるんだろう。
東京に綺麗な人が多いのはわかるが同時に特にどうってことない普通の人だって多い。つまり、単に絶対量が大きい中で一見埋もれてるように見えるに過ぎない。
その手のやつは浜辺の大量の砂粒の中からでも、しっかりターゲットを見つけるんだってば。現にあんた、上京してきてから既に何度か通りすがりにナンパ喰らってるじゃん。
わざわざそんなことを指摘するほどのことでもないので、素知らぬ顔でシンクに水を張って皿を水につけていると背後で不意にスマホの鳴る音がした。
ひっ、と漫画みたいな声を上げて充電してあった自分のスマホを慌てて掴むだりあ。わたしたちにやり取りを聞かれたくないのか、それを引っ掴んだままこそこそと浴室の方へと隠れた。表情や返答の内容から採用か不採用か自然と伝わってしまうのが嫌なのか。まあ、わからなくはないけど。
まだ座卓の前に座ってる奥山くんと目が合って、どちらともなく揃って微かな声が漏れて来る方に顔を向ける。
「…、…。…はい、はい!ありがとうございますっ!」
…やっぱり、わかりやすいやつ。
にっこり微笑む奥山くんともう一度目を合わせたところに満面の笑みを浮かべただりあが戻ってきて、わたしは内心ややほっとしながら顔を引き締めてとりあえずはおめでとう。と伝えるべく口を開いた。
本人が好印象を抱いてる職場から採用の返事をもらったんだから、まず辞退するって選択肢はない。実際に働いてみて何か問題が生じたらそのとき改めて考え直しても遅くはないし。
わたしとしてはその会社の規模がだいぶこじんまりしてること、社内の人間関係が一見良好に見える分逆に閉鎖的な環境なんじゃないか。って危惧から様子見の考えが強かった。
けど、もしだりあの第一印象が正しくて正真正銘風通しのいいフレンドリーな会社だったとしたら。もちろんそれに越したことはないし特に異論はない。このまま上手くいってくれたらそれが一番いいんだけど。と当然祈るような気持ちではあった。
そもそもそんなにいい条件の会社にどうしてこんな上手い具合に空きがあるのか。何か裏があるのかも、ってのがまた疑心暗鬼の素だったのだが。意気揚々と勤め始めただりあの報告で一応その辺の裏事情は明らかになった。
「何でもね。普段は人員足りてるし、今は事業拡張してるタイミングでもないから特に新卒とか採らないらしいんだうちの会社。けど少し前にたまたま欠員が出たんだって。ずっと勤めてた人が旦那さんの仕事の都合で、急に地方へ転居することになっちゃったらしくて」
募集をかけて最初に紹介されてきたのがだりあだったらしい。だりあの方はただこういう求人があるよ、と言われて深く考えず素直にそのまま面接を受けたに過ぎなかったんだが。
「競争率も何も、最初に来たのがわたしで若くて明るくて一応資格もあって。特に問題もなさそうだからそのまま採るか。ってなってそこでもう募集を打ち切っちゃったらしい。だからそもそも誰とも全然競争してないんだよね…。何でも待遇は悪くないつもりだけど破格にいいわけでもなくて。仕事は簡単ってほどじゃないけど特別専門的ってこともない、ので。そんなに真剣に選りすぐるっていうより、まあ感じのいい子が最初に来たからこれでいいかな。って締め切ったってくらいの感覚みたい」
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