第五章 獣人の谷へようこそ

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「お疲れ様でした! シオンさん!」 「ありがとう、コリスさんも。大変だったでしょう? 急なことだったし、楽器があるからって。無茶させちゃったかな」 「いいえ……、いいえ!!」  ぶんぶんと首を横に振り、コリスは興奮の面持ちで手の中の笛を握りしめた。谷に伝わる、こちらも祭祀用の横笛。今朝打ち鳴らしてもらった太鼓同様、館の一室に保管されていたものをシオンが見つけ出したのだ。 (本当は、ケントウリ様に所在を教えてもらったんだけど)  ひとさし、神子舞を終えたシオンは息を整えながら思い出した。  あの日、祠へ結婚の報告に上がったとき、どうすれば獣神たちも永らえてコリスを“祠守り”から解き放てるだろうかと相談した。その答えがあまりに意外だったので。 「初めてにしては、すごく上手でしたね。笛。聴いたことが?」 「はい。昔……すごく昔。わたしの一族が代々()()()()()()()()()()。名手の家系があって、これは、その家の宝でした。笛だけじゃなくて、太鼓も。選ばれた者にしか触らせてもらえなかったんですよ」 「コリスさんは、触らせてもらえなかった……?」 「ええ」  困ったような微苦笑で、コリスは視線を笛に落とす。 「当時の長からの厳命でした。『お前には館と祠の管理と、我らの子孫の守護を頼みたい』って。きっと、片親が魔物だからだって思いました。わたしが獣神様がたをお祀りしたことは、そういう意味ではなかったんです。今まで」 「そっか」  しょんぼりする桃色髪の少女を撫でたい衝動を懸命にやり過ごし、シオンは、さも名案が浮かんだかのようにコリスに微笑みかけた。 「あのね。今日吹いてもらった八つの節回しの繰り返し。それは、私がセイカで養親から教わったいちばん簡単な奉納曲なんだけど。セイカには、いろんな地域の神々への作法を調べて書物にまとめている学者さんもいてね。ジョアンのお師匠さんなんだって」 「へええっ」 (! 手応えあり。いけるか?)  シオンは慎重に、慎重にぎりぎりの『提案』をした。
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