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悪人の橋本達也はどんな人間でも悪い奴にすることができた。感化された人間は自覚なく、いつのまにか悪に染まっていた。
橋本は高校生になってから、周りのクラスメイトを悪に染めていった。それを注意するはずの教師も橋本から賄賂を受け取り、クラスはいつも不健全な状態だった。
だが橋本にも悪人にすることができない奴がいた。隣のクラスの山神茜だ。橋本は仲間と協力して、山神を悪の道へと誘った。
金を撒き、他人を操り、誘惑や脅しを繰り返した。しかし山神は橋本のどんな手段にも屈することはなかった。
実は山神は橋本と正反対の能力を持っている人間だった。どんなに悪い奴でも山神の能力で聖人にすることができた。橋本が人間を悪に染めるように、山神は人間を善に染めた。
橋本はこのままでは悪の軍勢が負けてしまうと察して、山神に一対一の勝負を挑んだ。戦いは素手による格闘戦。体格差のある橋本が圧倒的に有利なのは誰もが疑わなかった。
勝負は両クラスの生徒と教師が見守る中、校庭で行われた。開始の合図とともに橋本が山神を殴ろうとした。先手必勝だ。
しかし山神は避けようとも、防御しようともしなかった。橋本は拳が当たる直前で、手を引っ込めると今度は右足で蹴ろうとした。当たれば山神の体では吹き飛ぶほどの威力だった。
山神はまたも逃げなかった。山神は両手を重ねて目を瞑って祈っていた。橋本は無抵抗の人間を攻撃することはできなかった。そこで橋本に感化された悪人の一人が攻撃を当てないことに苛立ち割って入ってきた。
山神は目を閉じたままだった。橋本は悪人が山神を攻撃するところを、身を張って止めた。他の悪人も続々と出てきて、山神を攻撃しようとするが全て橋本が庇った。
満身創痍の橋本は自分の負けを宣言した。悪人達は渋りながらその場を去って行った。山神が目を開けて微笑む。
「橋本さん、これからは仲良くしましょう」
橋本は聖人のような後光を山神から感じた。橋本は心を改め山神と仲良くなり聖人として生きることを選んだ。
山神は両クラスと教師全てを聖人に染め上げた、たった一人を除いて。山神は不気味に笑っていた。山神の心中は闇に染まっていた。
『悪人よりも善人の方が従順で操作しやすい。これで私は両クラスを自由自在に操れる』
山神は橋本とは次元が違う極悪人だった。
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