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そして、貴文は続けた。
「あれ……、あの春木さんが言ってたこと、僕たちのことでしょう?」
さすがに、おっとりとして、鈍い貴文も気付いたのだ。
あたしは、恥ずかしくて、顔を合わせられなかった。
そんな、あたしに、貴文は優しく言った。
「でも、朝の発声練習も、ぼさぼさの髪も、よれよれのスーツも、みんな、僕を想ってのことでしょう?」
「えっ?」
あたしは、驚いた。
「きみが、僕をとても愛してくれていて、他の人に渡したくないって思ってくれてたからでしょう?」
「貴文……」
貴文は、気付いていたのだ。
あの、発声練習も、ぼさぼさの髪も、よれよれのスーツも、意味を分っていて、それでも、あたしの言うとおりにしてくれていたのだ……。
微笑んだ後、貴文は言った。
「だから、嬉しかったんだ。僕は」
そして、優しく囁いた。
「それに、僕は、きみじゃない人に好かれたって嬉しくないから……」
「貴文……」
あたしは、泣きながら、貴文に抱き付いた。
「ごめんなさい……大好き……」
「僕もだよ」
貴文も、あたしを抱き締めてくれた。
そうして、あたしと貴文は、ずっと、抱き合っていた……。
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