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「でも真さんは本当に楽しそうだったね。省吾が小学校に上がるまではいつも一緒で。歩けなかった頃なんかいつも嬉しそうに省吾を背負ってたよ」
そうだったかな…記憶がアヤシくて。
え~と。
「俺、真さんがうらやましくてさ。俺も息子が生まれたら、絶対あんな風に自分のトラックに乗せて一緒に走るんだって思ってた。悠斗が生まれて俺も願いが叶ったけどさ」
「俺も父ちゃんのトラック、大好きだもん」
玉子焼きを食べながら悠斗がいう。それを見て西風が笑う。
「一番覚えてるのがあれかな…みんなでメシ食ってる最中にスゴく綺麗な虹が出て。真さん、急いで省吾を背負って外に出て行った。省吾には綺麗な物をいっぱい見せたいって言ってた、見事な夕焼け空とかの時とかも飛び出して行ったな…やっぱり省吾を背負ってさ。真さんは一生懸命だったね」
よく覚えているよな、西風。そういえばそういう事はいっぱいあったな。
「覚えてる…」
省吾がポツリと言う。
血だらけの家族の姿を見てしまった省吾に、俺はいつも出来るだけ綺麗な物を見せたくて。
綺麗な夕焼け、綺麗な風景、満開の桜…仲間に情報を聞く度に、なるべくそこに連れて行った。
省吾には綺麗な物をいっぱい見せたかった。
うん…確かに一生懸命だったよ。
省吾が可愛いかったから、ただただ大事だったから。
それまでは、自分が護らなければならない物など何も無くて。
夕焼けは好きだったけど、虹や星空が綺麗だなんて感情もすっかり忘れ果ててて。
思えば省吾は、俺にそういう人間らしい感情も思い出させてくれたんだな。親になって初めて知る事のなんと多かったことか。
全ては省吾の為に…だったな。
あの頃は俺の全てが省吾中心だった。
「俺もなれるかな…」
省吾?
「親父みたいな父親に、ちゃんとなれるかな…」
少し目を伏せた。今の省吾にはこの話題は厳しかったかな…
「なれるに決まってんじゃん」
西風がそんな省吾の頭に手を置く。あ、西風もやっちまってるよ。西風、そいつ22だから。
でも、俺らの中ではやっぱりまだチビ省吾なんだよな。なりはデカくなったけど、こればっかりは…
「お前、真さんの息子だもん。伊達に父ちゃんの背中見て育ってきたわけじゃないだろう」
「兄ちゃん…」
西風なら例え静流の前でも怒らないんだな、省吾。差別か。
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