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「雅之、お前さ、しんどくない…?」
高校受験を控えた中三のある日。珍しく、たった一人で俺の家に遊びに来た大輝が言う。
「なにがしんどいって?」
「省吾と静流を見てて、しんどくないか?」
ああ…大輝は俺の気持ちをずっと以前から知っている、知っていながら知らない振りと言うヤツだ。
だからこんな風にはっきりと聞かれるのは初めての事だった。
「お前は?」
逆に俺は大輝に聞きたかった。
俺と違って自分の気持ちを前面に押し出している大輝。それは省吾と静流が出逢って3年近く経った今でも変わらない。
「俺は時々、すごくしんどいよ。静流の好きな男が省吾なのはわかってるけど…それでもあきらめ切れなくて。相手が省吾でなければって何度も思った」
「同じだよ」
そう、俺も同じ。静流が好きな男が省吾だって事がそもそもの問題。
「俺ら二人とも静流も省吾も大好きだからな。その時点で俺らは省吾に負けてんだよ」
結果、静流が幸せならばいい。静流が悲しむところは絶対見たくない。
極端な話、俺ら男はみんな同じ気持ちな訳だから、静流の気持ちが一番大事。
全ては静流次第でいいんだよ。
「俺、何で省吾に負けたのかな…小っさい頃から静流の事こんなに大好きなのに。誰よりも可愛いと思ってんのに」
俺の部屋の隅で膝を抱える大輝。もうすぐクリスマスだけど、静流からプレゼントをもらえるのは俺たちじゃないもんな。
「お前はいい男だよ大輝」
「知ってる」
そう来るか、余裕あるじゃないか。
「でも、静流にとっては俺が一番いい男じゃない」
「……」
「雅之も違う」
そりゃあな。
「指輪事件があったからな。あれが俺の中で一番引っかかってる」
「指輪?」
「中一の時の静流の誕生日に省吾が指輪あげて、俺がぐれて雅之に怒られそうになった事件」
ああ、そういえばあったな。あの時の静流の嬉しそうな顔と大輝の引きつった顔と、省吾のめちゃくちゃ困った顔が思い出されるわ。
「俺さ、あの後静流をアクセ屋に無理やり連れて行こうとしたんだよね。俺も指輪買ってやりたくてさ。でもそれに気づいた静流がさ、店の前で『省吾からのしかいらない』ってさ。タキいわく、すげートドメ」
うわ、それはきついな。まさに心臓一突きだ。
「省吾がいずれちゃんとしたのをあげるって言ったんだって。だからそれまで絶対誰からも指輪はもらわないんだとさ。それって、もう静流が売約済みみたいじゃん」
みたい、じゃなくて静流の中では多分もう売約済みなんだと思うよ。
「でも、絶対あきらめないんだ。俺、志望校は静流と同じだもん。ここで何とかがんばってみる」
大輝…結構悲壮だなお前も。でも俺はあずさの方も気になるけど。
わかってるのか?お前が静流しか見てないみたいに、あずさもずっとお前の事しか見ていないのに。
「そういや雅之、お前んトコの道場…今年も年末に恒例の大会やるのか?あのバトルロワイヤル」
「ああ」
俺の所属する空手道場は徹底的な実践空手だ。寸止めは論外。だから、普段はプロテクター装備で打ち合う。小さな怪我は日常茶飯事だ。
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