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――その小さい拳を握り締めて、その女の子は俺に背を向けて立っていた。
「あっち行って!まーちゃんをいじめるな!!」
泣きながら大きな野良犬の前に立ちはだかる、その小さな女の子の両足はガタガタと震えていた。
野良犬は今にも飛び掛らんばかりに唸り声を上げている。
「しーちゃん、あぶないからよけろ!」
最初の不意打ちで転んでしまった俺は、静流に向かって叫んだ。
――小学1年生の時のこと。下校途中の出来事だった。
転んだ時に足を捻ったのか、俺は立とうとしても全然立てなくなっていた。
「しーちゃん!」
後姿の静流が首を振った。両手を広げて俺を守っている赤いランドセル。
「まーちゃんをいじめるとゆるさないんだからぁ!!」
なきむししずる、怖くない筈は無いのに。今だってあんなに足が震えてるのに。
「あっち行ってよバカァ!」
「おい、大丈夫か!?」
ふいに自分の後ろから大人の声が上がる。そのおじさんは棒を持ってその野良犬を追い払ってくれた。
「しっ!しっ!」
その姿を見て安心したのか、静流がその場にへたり込む。
「しーちゃん!」
立ち上がれない俺は、這うように静流に近づく。
「しーちゃんだいじょうぶ!?」
「…うん、まーちゃんは?」
「足くじいただけだから!」
「よかったまーちゃん、こわかったよ~!!」
静流の大きな瞳から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。
野良犬を追い払ってくれたおじさんが心配して戻ってきてくれた。
「嬢ちゃん、かじられたのか?大丈夫か!?」
「私はだいじょうぶ~!まーちゃんがけがしたの~!」
泣きながらも俺の心配をする静流。
ただの泣き虫だと思っていた女の子が、本当はすごく強い女の子なのだと初めて知った小学1年生の俺。
まだ静流を「しーちゃん」と呼んでいた、自分も静流も小さかった頃の事。
自分を必死になって守ろうとしてくれたその小さな女の子に、俺はそれからずっと恋をしている――
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