【 赤いランドセル 】

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  「まーちゃん」    いつだって静流にそう呼ばれる事が嬉しかった俺。  小さかった女の子は、やはり俺よりもうんと小さいまま中学生になった。   「ちぇ、雅之いいなぁ。171かよ…その身長、俺にも分けてくれ」    身体測定の記入票を見ながら、友達の長澤大輝がうなっている。  大輝は155cm。中一なら普通だと思うけど?    俺は少しでも早く大きくなりたいんだ。大きくなって立派になって、守りたい人がいるから。  その為にちゃんと体だって鍛えてるんだ。    部活はやってないけど、小学生から町の空手道場で鍛錬はしている。一応初段だ。 「あ、木沙だ。おーい木沙!」  中学に入学して偶然隣り合った席に座ったのが縁で、大輝と話をするようになった学区外からの新入生、木沙省吾。  あいつも測定を終わらせてきたんだな。 「木沙、身長どうだった?俺、155!」 「…148」  先に言われては答えない訳にもいかないと思ったのか、少し恥ずかしそうに木沙がいう。    確かに大きいとはいえないけど、まだまだ伸びるだろうから大丈夫だよ木沙。 「太田君は170越えてるの?すごいなぁ」 「いや、別に…あのさ木沙、【君】は要らないから。呼ばれ慣れてないし」 「え?」 「雅之でいいよ、俺も省吾って呼ぶから」  実はこの辺りの小学区出身ではないこの木沙省吾の事を、俺は担任の先生から頼まれていた。  早く学級に馴染むようにしてくれということだった。一応、クラス委員だった俺が引き受ける事になったのだが。  入学して数日間、木沙…省吾を見ていて気がついた事は、本当に物静かなヤツだという事。  けど、印象が薄いわけではない。どちらかというとわざと目立たなくしているような… 「あ、じゃあ俺も省吾って呼ぶ!俺は大輝で」  大輝がそれに乗ってくれた。俺はすぐそばにいたタキを眼で呼んだ。 「省吾、俺はタキだ。滝川実のタキ」  タキも反応が早い。どうやらタキも俺同様、この省吾が気になっていたようで。 「え?あ…うん、ありがとう…」  ちょっと戸惑っている様子の省吾、何だかこういう雰囲気に慣れていないような感じだった。    いいヤツっぽいのに、今までそんな風に呼び合う友達とかいなかったのかな?  やっぱり、なんだか不思議なヤツだった。    けれどそんな省吾の事を、やはり俺と同じように不思議な想いで惹かれる人間がもうひとりいた。  
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